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ソフィア・アンティポリスのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ソフィア・アンティポリス(2018年製作の映画)
1.0
【開発失敗都市ソフィア・アンティポリスの亡霊】
ソフィア・アンティポリスとは、ニース国際空港から20kmのところに位置する場所の名前です。そしてそこは、1969年にピエール・ラフィット上院議員の手によって創られたエンジニア、研究者を全国から集めたシリコンバレーのような地域になっています。しかし、近年このテクノポリスは凋落の一途を辿っており、2014年にはインテルが、2016年にはサムソンが、2018年にはネスレが研究所を閉鎖し、失業者を出している状況に陥っています。街はすっかり活気を失い、レストランは昼食時にしか相手おらず、スポーツ娯楽を除き、もはや他の小さな街と張り合う熱すら失っているゴーストタウンまっしぐらな都市がソフィア・アンティポリスなのです。

そんなソフィア・アンティポリスを題名に持ってきた本作は、土地に残された者の息苦しさを独特なタッチで描いている。まず、豊乳手術に来た女性と医師との対話がドキュメンタリータッチで描かれる。医師が、危険だからと緊急手術を拒否するのだが、オーディションがあると言ってきかない女性が映し出される。そして、物語は不気味なムードに包まれる。映画の外側で何かが蠢いているような気にさせられます。登場人物はこう語る。

「みんなどこに消えちゃったんだろうね。死んじゃったのかな?」

まさしく、アメリカのシリコンバレーを追い越せと言わんばかりに始まり、大量に夢や希望を抱いた人々が流入してきたはいいものの、停滞するムードに耐えきれず違う地に消えていったことを暗示しているように見える。そして、流入してくるいかにも危ない人や、何もやることがなく無軌道にくだらない遊びをしたり、夜な夜な地べたで時が経つのを待っている人が対比され、頂点から地に堕ちていく様子を強調しているように見えます。また、シャネル等ブランド店が立ち並ぶショッピング街の閑古鳥っぷりを魅せることで、今のソフィア・アンティポリスの惨状を訴えようとしています。そして、ソフィア・アンティポリスから出られずくすぶっている人が、宇宙人たる存在、幻影を追うことで自己を保とうとしているのだが、既に亡霊と化してしまっている住人が生々しく描かれる。暴力を外へ出そうとしても不完全燃焼で終わってしまうところにリアルさを感じます。

これは日本でいうところの空族映画に近いものがある。『国道20号線』や『サウダーヂ』で描かれた、社会に押し付けられ外へ出ようにも出られない閉塞感と苦痛がこの作品にも現れています。

ただ、日本に住んでいる身としては、いまいちピンとこないものがあります。日本における多摩ニュータウンみたいなものかなと想像力を働かせてみるのだけれども、そもそもこの映画の挿話が総じてつまらなく、どうでもよく感じてしまったので、全く乗れませんでした。やはり、土地に取り残された者の幽霊性を描くのであれば、黒沢清映画のようにしっかり死なる世界を描いてほしいし、閉塞さを描きたいのであればもっとドキュメンタリーに寄せて下手な宇宙人の話はカットすべきだ。

期待していたのですが、Not for meな作品でした。
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