ベビーパウダー山崎

未亡人変態地獄のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

未亡人変態地獄(1991年製作の映画)
3.5
ビデオカメラの映像に切り替わる瞬間、もう一つの世界が生々しく立ち上がる。フィルムで撮られた日常は虚構だが、その虚構の日常で撮られるビデオカメラの映像は虚構のなかのリアル。地鳴りのようなノイズ音と共に湧き出る不穏さが、セックスを見に来た客を一瞬で支配していく。これは抜くためだけのポルノではなく、ああそうだこれは「映画」なんだと身体に染み込んでくる。都内の高層ビルを映した流れで、その部屋ではガスマスクを付けた女性が椅子に縛られている。あの画の強度。説得力。
佐藤寿保の映画はビデオカメラと鏡。三面鏡をフルに使った濡れ場。ただダラリと男と女の裸を撮る訳にはいかない、鏡に断片的に映る顔と肉体、工夫と創造。これが映画の才能。トランシーバー、露出プレイ、新宿ミラノ座前で女性を裸にする逮捕ギリギリのデリラ撮影も佐藤寿保。凶悪な作家にしか撮れない限界を超えてくる表現。アングラになりそうなところを、ラバーの軋みとブラウン管のノイズで、どこかSF的な近未来の変態として映す。刻む。
サディストとマゾヒストの行き着く先の欲望は真っ当な妻の毛糸まで伝播していく。死ぬのは男ばかりで、底無しの女郎蜘蛛は新宿に棲み着き、また次の獲物を狙っている。「不在の夫」が平凡な男と狂った女のシンプルな物語を引っ張る鍵になっている。四人しか出てこないのに、これだけの充実度。佐藤寿保のポルノをシネロマン池袋の最前で真剣に見るゴールデンウィーク初日。