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The Iron Rose(英題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

The Iron Rose(英題)(1973年製作の映画)
4.5
死者の世界が生者の世界に出会う…

やっと見た!オススメしていただいてたのに、予習やら何やらで先延ばしにしてしまってたんだけど、マジでサッサと見とけば良かったと後悔しちゃうくらいに傑作!なんなんこの画面の美しさ!ジャンローランの日本での知名度の低さに疑問しか生まれてこないんやけど…。

背景の中に沈めるように、だけど視線を全部そっちに持っていくような人物の捉え方が相変わらず凄い。奥から手前、右から左、ガチッと決まった背景を固定して人物だけを動かすたっぷりと時間を使った長回し。そこに差し込む光、際立つ自然音、覗き込んでるような感覚にさせられる左端が少しだけ欠けたカメラ。マジでため息が出てしまうほどに画面が美しくて引き込まれる。欠けてるのは単純なミスなんかもしれないけど、それすらもプラスの方向で働いてしまう圧倒的な画面の説得力に見惚れるしかない。

少し青みがかった薄暗さの中にある赤と、手に取る漆黒。色彩の対比を至る所に散りばめ、立ち並ぶ現実離れしたオブジェが絶妙にズレた空間を意識させ、意味深に語られるファラオと魂の会話から生と死の物語へと傾きだす。

墓地の中で一発ヤッテた男女が迷子になり墓地から出られなくなるっていう、めちゃアホみたいな物語なんだけど、大きな木や広い土地が田舎のようで安心すると語る男とここにはいたくないと語る女という対象的な2人が物語が進むにつれて逆転していくのが面白い。

街にうんざりしたと語る男にとって、都会の中で安らぐ自然のある場所は墓場という「死」の場所だけというのが皮肉だし、そういった意味で生と死が同居する墓地という空間は、彼にとってはその2つの天秤で揺れ動くための場所だったんだなって思った。墓場の下へと行こうとする彼は死を心のどこかで無意識のうちに求めていたのだろうけど、「私は生あるときの愛が好きだ」と語る彼は間違いなく生への思いが強いわけで、うんざりする現世へと必死で帰ろうとする困難な道を行くなりふり構わない生への渇望がにじみ出てて良かった。特に出口探すときの全力疾走っぷりが凄かった(笑)墓場でやる走り方じゃねぇ…。

『呪われたレイプ魔』でもピエロが異界へと誘ったように本作でも意味深にピエロが登場する。恐らくあの時点で異界へと入り込んだのだろうし、死で囲まれた空間の中で生を象徴するような性を行うというのも、直前の魂の会話を受けて死から蘇ろうとするかのようで、独特な雰囲気出ててゾクゾク。でもこの時に男が「墓の下なら邪魔されない」っていうのが、死の世界なら邪魔されないっていう意味にとれてしまうから、そこを汲み取った上での異界化なんだろうなとも思った。

冒頭、蒸気機関車のシーンで女が上、男が下となる配置はそのまま後半の墓場の穴へと引き継がれていき、女が男を見下ろす時には右回転のカメラ、逆に男が女を見上げる時には左回転のカメラとなるのが印象的で、時間を進めるのか後退(停滞)させるのかをお互いの立場をもとに対比させるのが面白い。しかも本作の場合には進まない時間=永遠となるわけで、閉じた世界での永遠の愛へと男を誘う展開をクリスタルローズが象徴するし、それは死の世界なら邪魔されないという無意識下で男が望んだことでもあるのだろうから、置かれる花は2人を祝福するかのように見えて面白かった。

面白すぎてヤバかったから、マジでBlu-ray買って良かった。『呪われたレイプ魔』も『催淫吸血鬼』もDVDで見たけど、ローラン監督の作品はBlu-rayで見た方が良いような気がする。引き込まれる映像の美しさがほんとヤバイ!
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