空海花

17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン/キオスクの空海花のレビュー・感想・評価

3.8
1937年、ナチ・ドイツとの併合に揺れる激動のウィーンを舞台に
幻想的な情景
反復と隠喩
精神分析学者フロイトの存在と言葉
これらが随所に散りばめられた作品。

17歳の主人公フランツは母と二人暮らし。
山の間の湖の畔にたった一軒の小さな家が佇んでいるのが、可愛らしい。
母のパトロンらしき人物が急死してしまい
息子はウィーンへと出稼ぎに行く。
それが題名の「キオスク」タバコ屋さん。

列車に乗って到着すると、老婆が言う。
腐った時代の悪臭。

お店には嗜好品や新聞、絵葉書、文房具、風俗誌なんかもある。
アイテムは自由の象徴のようだ。店主オットーの心。
“タバコ屋が売るのは、味わいと快楽”

少年はその店で頭の医者、フロイト教授に出会う。
フロイトはユダヤ人であり、抑圧と老いや病を抱えながらも、診察室ではない場所で少年と語り合う。
フロイトの生の声を人生訓にできるなんて、
なんて幸せな、と思う。

処方箋はまずは恋せよ少年。
そして夢日記。
言われた通りまっすぐに行動するフランツ。
ボヘミア出身の年上女性アネシュカに一目惚れ。
奔放な彼女に翻弄されて
彼は時代にも翻弄される。
早くに大人になることを余儀なくされる。

オットーもフロイトも、優しい人で
パトロンの居た母も実は気骨がある女性であった。
それはとても幸せなことなのに。
時代の悪臭の中の、香しい至高の葉巻のように。
だが、それを識った彼を待ち受ける未来は暗澹としている。

アネシュカは生きるために仕方がないと言う。
フランツは自由を生きるために…

エンディング曲が心に染み入る。
悲しいのに多幸感に包まれた。


繰り返される水の映像。
果てない海ではなく故郷の湖だろう。
胎内や回帰、またその逆も。
鳥や小動物の死体は変容、
蛾も別の変化。
蜘蛛は縛り付け捕らえる。
光を反射させる破片はガラスだろうか。
彼の心のように、写り込むもの、投影するもの、沈んでも朽ちずまた生まれる。

“心の自由なくして、民族の自由なし”


2020劇場鑑賞No.91/total127


ちょっとよくわからないところや細かいところは気になりましたが、流れる空気感は美しい作品でした。
これは原作をぜひ読みたいと思いました。
ブルーノ・ガンツどうか安らかに🙏
お姿をスクリーンで観られて良かったです。
空海花

空海花