めしいらず

エッシャー 視覚の魔術師/エッシャー 無限の旅のめしいらずのレビュー・感想・評価

3.5
家族や心酔者の証言を得ながらエッシャー本人が己が人生と作品への思いを直接私たちに語りかける体のドキュメンタリー。旅先で出会ったアルハンブラ宮殿の意匠の強烈なインパクト。法則性、反復性。幾何学性。それらがエッシャーの意識下に備わった芸術と数学的関心とを結び付ける。まるで設計図を書くような版画の制作過程。敷き詰め模様。二次元と三次元の連続性。立体は単純化され平面に吸収される。背景も意味を持つメタモルフォーゼ。水平と垂直が違っている別の次元が同じ画面上で交わり、上昇と下降が無限に循環する階段のゾクゾクするような不思議さ不条理さ。内側に無限に小さくなり反復する入れ子構造に弱点を見つけ、それを反転させて周縁ほど無限に小さくすることで完成した極限の表現。幾何学性に寄りすぎて芸術から逸脱する不安を越えて、遂に全世界を絵の中に取り込んだ。有限の平面上に表現された無限の循環。これらをトリックアートだとか騙し絵だとかと軽々にカテゴライズするのは作品理解から却って遠ざかる。常識がゲシュタルト崩壊を起こしたかのような、世界の輪郭が曖昧に溶けていくような、脳髄が眩惑されるような得も言われぬ芸術体験は、エッシャー作品でのみ得られる特質だろう。その根っこは案外彼の遊び心にあるのかもしれない。エッシャー好きは必見の映画。
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