半兵衛

すけべ妻 夫の留守にの半兵衛のレビュー・感想・評価

すけべ妻 夫の留守に(1995年製作の映画)
4.5
イプセンの『人形の家』を現代版にバージョンアップさせたかのような、「家」に抑圧された二人の女性がなりゆきで出会い一緒に逃げるうちに真の自由に目覚めるまでが『シンデレラ』(これも家から出る話か)のような寓話として描かれる。それでいてピンク映画としても成立しているという奇跡のような傑作。

この作品の最大の特色は映画を見終わったあとに覚える多幸感で、それまでの佐藤寿保作品にあった鋭さや、コピー機やテレビ、パソコンなどといった現代的なツールを使った冷たい作風、切断や血などバイオレンスやショック演出はこの作品では控えめになっている。その代わりそれまで佐藤作品では歪んで描かれていた愛がここではストレートに描かれ、自由を手にした主人公二人のレズ関係や新たな愛を手に入れた二人の男性の結末に重なることで見ていて主人公たちのようにハッピーな気分になっていく。

文字通り人形のような生活を送っていたヒロイン役の貴奈子も彼女のキャラとハマっていて良いが、それ以上に姑や夫との関係に悩む吉行由実の演技が最高。前半の家庭に抑圧された大人しい妻の姿から一転して後半家庭を吹っ切って本能のままに生きる様をエキセントリックに好演している。そして吉行の姑にしてこの映画最大の悪役として彼女たちに立ちふさがる女性を伊藤清美の好演も見事で、後半の吉行と伊藤のチャンバラシーンは荒唐無稽なはずなのに役者二人のエキセントリックな持ち味が発揮されて活劇として成立することに不思議な感動を覚える(鈴木清順や石井輝男映画のようなケレン味、女優二人の高倉健や小林旭のような決まった顔立ち!)。同時にこのシーンはアクション映画としても成立しており、佐藤寿保監督が実は器用な映画監督であることに気付かされる。

あと佐藤作品にしては珍しく笑えるシーンが多いので、リラックスして鑑賞できる。特に前半、夕食の最中に姑に夜の営みについて聞かれた吉行が夫との行為の流れを語っていくうちに二人とも興奮してあられもない姿になるシーンは山本晋也みたいにアホらしくて爆笑した。チェーンソーを使った追いかけっこのアホらしさも最高(ちゃんと役者にチェーンソーを使わせているのも凄いが)。

そして「再出発」という言葉がこれほど似合うラストも無い気がする、車中による複数の性行為という下衆な映像になぜか見ていて前向きになれる活力をもらえてしまう。それを更に加速させる死んだはずの人たちが踊りまくるアホらしくも何か幸せになるシーン。

車というギミックを映画的に活用していることにも注目。貴奈子が悪党に車で夜の街に連れていかれるシーンや悪党二人が現金や重要なビデオを持ち逃げした主人公が幽霊ビルに逃げ込んだことに気付くシーンは、夜の闇や都会の風景、闇や光に映える窓ガラスのブルーが活かされていて映画らしい名シーンに。一方でラストではノアの方舟のような自由の象徴として登場させ、アナーキーな多幸感を助長させる。こういうところに作り手のセンスが滲み出るなあ。
半兵衛

半兵衛