河豚川ポンズ

パラサイト 半地下の家族の河豚川ポンズのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.1
下地は格差社会、そしてさらにその下には…な映画。
「新感染 ファイナル・エクスプレス」といい、アカデミーまでもぎ取る韓国映画界の底力は本当にすごい。


路面の脇から小さく覗く窓、半分地下に埋まったような家に住むキム一家は、ピザ屋の箱を組む内職で食いつなぐような貧困世帯だ。
スマホは持っていても、パスワードのかかっていないWi-Fiを家中を探し回ったりと、気ままなその日暮らしをしていた。
そんなある日、長男のギウ(チェ・ウシク)の親友で名門大に通っているミニョク(パク・ソジュン)が一家を訪ねてくる。
富をもたらすという「山水景石」という岩を手土産に持ってきた彼は、ギウにある依頼を持ち掛ける。
それは自分が留学している間、今やっている家庭教師のアルバイトの代行をして欲しいというものだった。
確かにギウは大学受験の勉強中で他人に教えられるかもしれないが、それでも浪人中の身、当然自分には教える資格なんてないと話す。
しかし、教えに行っている家は高級住宅地にある富裕層で給料もとてもいいと聞き、ギウはミニョクの頼みを聞くことにした。
ギウは妹のギジョン(パク・ソダム)に大学の入学証書を偽造してもらい、依頼主のパク家の邸宅に迎え入れられるのだった。


今年のアカデミーは「ジョーカー」か「アイリッシュマン」、大穴で「マリッジ・ストーリー」辺りかなとか思ってたら、まさかのノーマークの韓国映画がノミネート。
この時点で自分は全く観る予定にはなかったし、よもや作品賞を取るなんてその時は思いもしなかったけど、何だかえらい評判も良いし、韓国映画なのに珍しくTOHOとか大きい映画館でやってるしということで観てみた。
日本以上に学歴社会で格差社会の韓国で過ごす貧困に喘ぐ一家が、雲の上の存在のような裕福な一家に取り入って文字通り"寄生"していく。
これだけ聞くとなかなかおっかないサスペンスものの匂いがするけど、あくまで社会風刺を絡めたブラックコメディといった感じ。
だからかそこまで重苦しくなく観られる、でも根底にある格差社会への警鐘というメッセージはしっかり伝わってくる。
劇中で寄生される側のパク家は騙されやすく単純だがいい人たちだと、寄生する側のキム家が言うほどだったのに、そんなパク家の人たちでさえ無意識に主人公たちを抑圧してしまっている。
社会格差間での対立となればいがみ合っているようなイメージを抱くかもしれないが、こと個人間でのコミュニケーションに至ってはそのような感覚を持っている人などほとんどおらず、とてもリアリティのある感覚なのだろう。
でも実際問題としてそれは見過ごせない問題として表出するようになってきた。
その解決は、社会の上に立つ側の人間の責務であるべきなのか、それともそれを生み出してしまう社会の構造に問題があるのか、はたまたそれ以外の何か大きな問題があるのか。
この映画でその答えは明確にされないが、この中で起きていることは大なり小なりは別として実際に起きていることに近いことなのだろう。

メッセージ性だけでこの映画がアカデミー賞を取れたのかと聞かれれば、それは絶対に違う。
時流に合ってて意義のあるという意味ならば「スキャンダル」の方が間違いなくそれに近かっただろうし。
ならば何が違うのかといえば、それは重苦しさ感じさせないための徹底的なエンターテイメント性だろう。
ブラックユーモアもあるけども、一家への寄生を成功させた中盤からの展開は本当に目まぐるしく変化していく。
観客がわずかに感じていた違和感や伏線がどんどん回収されていって、ますます予想できない方向に物語が突き進んでいくのはまさしくジェットコースターのよう。
こういう方向性としては「パルプ・フィクション」とかが近いんだろうか。
ただそこに今作られるべき意義とメッセージを乗せてまとめ上げられたのは、間違いなくポン・ジュノ監督の手腕あってこそだろう。
ポン・ジュノの映画ってそれこそ「グエムル-漢江の怪物-」ぐらいしか観たことなかったけど、他の映画にもちょっと興味が出てきたかな。