銀色のファクシミリ

#ハンド全力の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

#ハンド全力(2020年製作の映画)
4.6
『#ハンド全力』(2020/日)
劇場にて。弱小ハンドボール部の奮起、被災地復興、SNSの功罪など多くの要素を含みながら、その全てに「あらゆるものには自分の知らない面がある」というテーマを通して主人公の成長を描いた青春映画の傑作。でも主人公は帰宅部。

あらすじ。熊本の仮設住宅で暮らす高校生のマサオ(加藤清史郎)。無為に日々を過ごしていたが、ある日仮設住宅前でハンドボールをする友人の画像をインスタに投稿し、さらに「#ハンド全力」をつけて投稿すると大きな反響を呼んだ。人生初のバズりに喜び、注目と関心を集めることにのめり込んでいく。

感想。周囲の反響と応援はさらに拡大する。だがSNSだけでの熱意だから現実との乖離も拡大していく。「いいね」の数しか見えていない主人公の危うさから目が離せない。そんな中でもマサオの心底、彼から見た周囲の人々の印象が丁寧に描かれ、物語に織り込まれていく。

そして、あらゆるものが別の面を見せる後半。人生、友情、家族、プライド、人々の様々な事情。そして変わらずにいる人のありがたさ。前半でマサオと関わる人々をしっかり印象づけているから、後半でその人々の別の面をマサオと共に知っていく驚きを味わう構成と演出の巧みさ。

マサオが色んなものや人の「別の面」を知っていくことで心が動いていくのが良き。さらに個人的にこの映画の白眉は「踏切」の場面。被災地のあれで人生の表裏を描き、それを高校2年生がどう受け止めたかで、彼の成長を描く脚本の素晴らしさ。ここはシビれました。

なにげない投稿からはじまったSNSのバズり。実はその時に生まれていた自分の中の本物と、周囲に生まれた本物を集めていくような終盤。SNSを安易に悪役にせず、様々な表裏を見せて「本当ってなんだろうね」というテーマを浮かび上がらせていく青春映画の傑作でした。感想オシマイ。

追記。ヒロインを熊本県出身の芋生悠、同じく熊本県出身のHKT48の田中美久を配する地方創生映画らしさを見せつつ、主役に加藤清史郎、さらに鈴木福、蒔田彩珠に志田未来、顧問役に安達祐実と「有名子役出身アベンジャーズ」な、若きベテラン陣競演の楽しみもある映画でした。意図的だったのかな?

あらゆるものの別の面を描く映画で、数少ない表裏一体の人だった部長の島田くん。最後の心情吐露が愛おしいまでに「#ハンド全力」だった。「桐島~」の野球部の部長を思い出させる人で、まれに現れる「ほかの誰より不幸になってほしくない人」。この映画の真ヒロインかもしれない。追記もオシマイ。