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あなたの名前を呼べたならのhasseのレビュー・感想・評価

あなたの名前を呼べたなら(2018年製作の映画)
3.9
演出4
演技4
脚本4
撮影3
音楽4
技術4
好み4
インスピレーション4

渡欧経験のあるインドの女性監督ロヘナ・ゲラの作品。歌って踊って派手な演出というインドの典型的な演出はなく、欧米の若手監督っぽい、繊細な空気感や台詞の間(ま)を重視した演出。

異なるカースト間の恋愛、結婚はNGという風習は、下層カーストを虐げるだけでなく、上層カーストにも生きる上での不自由さをもたらす。本当に好きな相手と一緒になれないという苦しみは程度の差は勿論あるが本質的には同じである。

同じ家で生活しながら階級による圧倒的な断絶がありながら(壁を挟む横移動のショット)、やがて交流が深まり、祭りのあとEVのなかで二人が初めて隣に並んで立つショットがあって、その直後にアシュヴィンがラトナにキスをするという、流麗な演出。

(上流階級が話す)英語を知らない/話さないラトナがミシンをプレゼントされた時、Thank youと英語で礼を述べるショットがよい。アシュヴィンが召し使いとしてではなく、対等な人間としてラトナを扱ってのプレゼントであることが分かったから、自分もそれに応えようとしたのだ。

都会におけるカースト格差と、村における女性差別(結婚相手を親に決められる、一生「未亡人」というステータスに縛られる、未亡人は花嫁に会ってはいけない)の二重苦に苛まれるラトナが、それでもメイドの仕事の合間を縫って裁縫を学び、新たなステップにチャレンジする姿は、ドストレートな主題歌と相まって、「勇気」(ブレイブ)を見る人に与えることだろう。

ラスト、NYに渡った(とおもわれる)旦那様から電話があって、そこで初めてラトナは「Sir」ではなく「アシュヴィン」と名前で呼ぶ。ここからは妄想だが、アシュヴィンは自由に結婚できるアメリカにラトナを呼び寄せるだろう。ラトナはデザイナーの仕事が軌道にのり始めたばかりで、そちらを優先すべくインドに残りたいと告げるだろう。ラトナが何年後に独立する時がアメリカに渡る時だ。優しいアシュヴィンのことだから、それまで待つよと言いそうである。
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