学歴もなく若くして未亡人となってしまったインドの貧しい女性ラトナ。金持ちの家に住み込みの家政婦として働きながら、田舎で暮らす妹の学費を稼ぎつつ、自分も服の仕立てを勉強して自立しようと静かに頑張っている。
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そんな彼女と、御主人様である実業家の御曹司アシュビンとの間に、芽生えてしまった許されない恋心。
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カースト制度の身分格差、男女の格差がいまだに色濃く残っているインド社会。古い因習から脱しようとする彼女のような女性もいれば、伝統的な価値観に染まったまま若くして親の決めた相手に嫁いでいく女性もいる(なんと彼女の大切な妹!)。フェミニズムに対する温度差の違い、女性監督ならではの細やかな視線で描くインド社会の現実。
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身分の高い男でさえ(だからこそ?)親を無視する勇気も、因習を打ち破る強さもない。社会のおかしさを人々に気づいてほしいというメッセージの詰まった悲しいラブストーリー。
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ラスト、別れ際にやっと言えたラトナの一言がとても切なかった。それが邦画のタイトルになってます。原題は「Sir」だったのか、裏返しですね。
すぐ歌い踊りだす陽気でドラマチックな如何にもな感じのインド映画とは一線を画す、地味で静かでリアリティの高い良作でした。