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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

4.4
「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun(2021)

カンザス州リバティはアメリカの地理的中心。人口は123人。実在の町。

リバティ出身の編集者が地元に縛り付けられるのを嫌ってフランスに赴き夕刊紙の別冊という形で「フランス特報」という雑誌を始めたという設定。アメリカのど真ん中の田舎から憧れたフランス、そして雑誌「ニューヨーカー」への憧れですよという監督の目配せだ。

オムニバス映画は昔から沢山ある。エドガー・アラン・ポーの原作をフェリーニ、ルイ・マル、ロジェ・バデムが監督した「世にも怪奇な物語」。小泉八雲の原作を小林正樹監督が映画化した「怪談」そして和田誠が4人の作家の恐怖小説を映画化した「怖がる人々」

和田誠さんにはパスティーシュの傑作「倫敦巴里」という書籍がある。映画や小説の文体を模倣したたくさんの作品が収められている。ウサギと亀を黒澤明風、池波正太郎風に書き分けたり。

「フレンチ・ディスパッチ」は和田誠さんの「倫敦巴里」の様だ。パロディ・オマージュ・パスティーシュ満載だ。

冒頭のウエイターがビルの階段を登る場面はジャック・タチ「ぼくの伯父さん」。バスタブに浸かってメモを書くティモシー・シャラメはダビッドの絵画「マラーの死」。シャラメが監督から役のために観る様にと指示されたのはトリュフォーやゴダール。署長役のマチュー・アマルリックが監督から参考にする様に言われたのはアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督「犯罪河岸」のルイ・ジューべ。

和田誠さんならこの映画を観てきっと気にいる様な気がする。天国でも和田さんは、観てるかな。

ミニレポート「自転車レポーター」自転車に乗ったレポーターが編集部があるアンニュイの街をレポート。写真を2枚並べる「アンニュイ今昔」かつての「スリ通り」は今はパンクヘアーの目つきの悪い若者がひしめいている。

第一話「確固たる傑作」メキシコ系ユダヤ人(笑)の画家がヌードモデルを描いている。題名は「裸のシモーヌ」。しかし完成した作品はポロックみたいな抽象画だ。

第二話「宣誓書の改訂」は五月革命。何でも否定する噛み合わない会話がヌーベルバーグ風というかゴダール風というか。いつもハーフヘルメットを被っているリナ・クードリがキュートだ。

第三話「警察署長の食事室」は誘拐事件。植木等の「お呼びでない」そっくりの場面があって笑った。アクション場面になるとなんとアニメーションになった。「グランド・ブタペスト・ホテル」の時もクライマックスの活劇はミニチュアだった。監督は暴力の魅力を描くことを極力避けたいと考えてるのかな?

監督が好きな物を集めた玩具箱の様な作品。クスクス笑いが何度も起きる。ヌードはあるけど性愛は無い。争いと死はあるけど悲しみはない。

日比谷シャンテ朝9時の回はほぼ満員。カップルが多い。おしゃれだしデートムービーに良いかも。

Amazonプライム・ビデオでゴダールやトリュフォー作品を探していたら(ほぼ無い)「ニューヨーカーの世界」というTVシリーズを見つけた。雑誌ニューヨーカーのテレビ版。一回30分。レポートやドキュメンタリーで構成されてる。それぞれのエピソードの初めににタイトルとイラスト。

もしかしてこれが「フレンチ・ディスパッチ」の元ネタ?
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