OBL1VIATE

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のOBL1VIATEのレビュー・感想・評価

-
疲れた日にも楽しめる心地良いナンセンス具合だった。尤も、全てがナンセンスだと気付くには批評家ベレンセンによる講義シーンを待たねばならず、それまでは頭をフル回転させて、冒頭から繰り出される画面中に散りばめられた夥しい数の文字と早口のナレーションからどうにか抽出した雑多な情報を自分の知識と結びつけて解析する努力を求められるのだが。
画商カダージオの「いかにそれらしく見せるかが重要なのだ」という台詞は表面的には前衛芸術を巡るアートマーケットへの皮肉だが、本作を通じて我々が浴びせられ続けるナンセンス性への説明でもある。
映画のオマージュも恐らく無数に散りばめられていて、例えばクリュニー修道院収蔵の『貴婦人と一角獣』が飾られた談話室など『ハリー・ポッター』以外にはあり得ないし、男子が談話室でチェスをしながら女子寮へのアクセスについて居丈高に腕組みをして立つ女子と口論する様子はハリー・ロンとハーマイオニーと重なる(尤も女子寮云々のくだりは原作にしかないのだが)。あとはゼフィレッリとジュリエットがバイク街をひた走る場面(『汚れた血』)など。
エンドロールでテンポ良く映し出されてゆく『フレンチ・ディスパッチ誌』の表紙達はルネ・ゴシニの『プチ・ニコラ』シリーズを始めとする60年代以降のフランスギャグ漫画/絵本色が強く、数々の修辞的な出鱈目で飾り立てられたこの映画へ、街並みや衣裳と共に妙なリアリティー つまりは「それらしさ」を与えている。
【追記】
字幕では分からない小ネタがいくつか…エイドリアンの背中に書かれた「évadé fiscal」、顔色の悪い巡査部長の幼馴染「chou-fleur(カリフラワー)」、監禁されたジジが見張番のヤク中ショーガールに歌ってもらう子守唄『À la claire fontaine』、等々。
OBL1VIATE

OBL1VIATE