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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のrichardのレビュー・感想・評価

3.5
無敵の彗星は弧を描き、
時空を超えて銀河系の外へと加速する。
僕らの大義とは?

モダンでユニークでエキセントリックかつ大胆で刺激的で暴力的。そんな雰囲気だけのワードチョイスをしたくなる。それはいいのかダメなのか、まあそんなことはいいじゃない。センスっていうのは紙一重なのですし。おすし。食べ物が出てくる雑誌っていいよね。
映像に集中したかったので吹き替えで鑑賞。

雑誌って読んだとき別に心に強く残る訳ではないし、映画みたいに世界観にどっぷりハマったりドラマみたいに続きが気になったり小説みたいにページをめくりながら心を踊らせたりとかあんまりしない。
ただ、やっぱり好きなデザインってあって、ポパイとかファッジとかキンフォークとか、統一感とかそれぞれの「らしさ」を大事にしてる雑誌がわたしは好きだなってつくづく思う。何年かに1本、シーズンに1作品、よりも早いスピードで、めまぐるしくトレンドを追っていかなくちゃいけないこの世界は大変だなぁ。編集者たちのクセもとってもよかった!わたしも雑誌読んでて、この人の文章好きだなってことあるし、推しのライターさんとかいる。

フレンチ・ディスパッチは、ありとあらゆる映像の手法を使って、それはそれはおしゃれな「見る雑誌」として映画を完成させた。ただ、それがおしゃれなだけじゃない仕上がりとなっているのは、学生運動っていうスパイスがきちんと効いているからなのかもしれないよな、と、思う。政治的な活動を何の抵抗もなく観ることができたのは、やはり海外の若者のそういった様子は見やすくて、監督がインタビューで「フランスでは政治的な会話は…ファッションとは言いたくはありませんが、学生が好んで口にする定番の話題となっています」と語っているように、文化的な行動として当たり前のものとされているのが見てとれた。まあ日本にも学生運動ってあったわけなんだけれど。今では若者の政治への関心は驚くほど低い。

「僕らの親の世代で大人として生きる自分が想像できない」というセリフがあったが、大人という年齢になった今でもわたしは、自分が40,50と歳を重ねたときのことは、自分自身のことだけではなく、日本や世界のことを想像するのも難しい。自分のアイデンティティとか遺伝子情報をどこかのクラウドにアップしておけるようになってみんな地球に生存するのは諦めてバーチャルの世界で生き続けるようになるんじゃないの。

昔は記者っていう存在はヒーローだったんだなと思う。世の中を正しく、丁寧に、中立的に、文化的に伝える役割。それが今やメディアはマスゴミと呼ばれ、SNSが加速した時代ではトレンドを先駆けることは難しくバズった動画をかいがいしく教えてくれるのがテレビの役割みたいになっている。そのことが恥ずかしくてならない。芸能人が映像を見てコメントをするだけの番組は、とてもじゃないけどなんだか共感性羞恥で見てられないというのが個人的なコメントだ。ただ、ひさしぶりに新聞を読んでみると、興味深いコラムや胸を打つ記事を見かけて、高尚な気持ちになった。まだまだ、新聞も、雑誌も、世の中のメディアにはできることがたくさんあるはずだし、可能性を信じていたいなと思う。

印象的だったワードを。
「孤独は一種の貧困」
「気高い美女はみんな心の内を明かさない」
「人が最後まで忘れないのは、匂いらしい」
「そう書いたのは意図的だと思わせる」
昔営業してたとき、「できなくてもできるって思わせるようにしゃべるんが仕事とってくるコツや」って言われたの思い出した、って書こうとしたらグランドイリュージョンのレビューでも書いてました。
でもそういう姿勢は大事で、偶然起きたこととか、なんでもないきっかけで生まれた言葉も、最初からそこにあったみたいに思わせることで、ブランドは確立されてゆくのではないか。どんなコンテンツも、きっとワンアイデアとかジャストアイデアから生まれたものもあるしひょっとしたらそういうことの連続かもしれない。ハケンアニメとはまた違う、ものづくりへの姿勢と時事への向き合い方を考えさせられる作品だった。

しかしじっくり腰を据えて観るっていうよりかは、ほんまに、さっと流し観したりずっとループでカフェのスクリーンとかで流れててもおしゃれかもな(そうであるべきではないだろうけれど)みたいなことは思った。そういう楽しみ方もできる作品。

no crying!
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