幽斎

ファブリックの幽斎のレビュー・感想・評価

ファブリック(2018年製作の映画)
4.0
未体験ゾーンの映画たち2021最大の問題作遂に降臨!。一般的にホラーとスリラーの境目を縫う作品は面白い。本作はレビュー済「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」Ari Aster監督の後継者的奇才が誕生した瞬間。ホラーは恐怖を直接描く、異形の怪物、血塗られた殺人鬼、グロテスクな幽霊。スリラーは内面から来る違和感、不条理、常識の欠如など心理的に脅かす。京阪の緊急事態宣言が解除され(鑑賞当時)久し振りにシネリーブル梅田にて鑑賞。

イギリス、私が映画で一番好きな国。最近は尖った作品も多くジャンルを問わずハズレも少ない。英国はシェークスピアの国で、映画より演劇が格上と思う無二の存在。故に起承転結やフォーマットに煩く、だからこそ規格外の作品は漏れなく傑作が多い。ミステリー発祥の国らしく、監督よりも映像作家と形容した方がしっくり来る。私の生涯2位作品「悪の法則」Sir Ridley Scott監督を筆頭に秀才を数多く輩出、Christopher Nolan、Sam Mendes、人材には事欠かない。そして遂に奇才とスクリーンで相見えるチャンスを得た。

Peter Strickland監督、長編デビュー作「Katalin Varga」いきなりベルリン映画祭で銀熊賞受賞。監督のインタビューを交えた一部をご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?v=1dO_7oKzAyA
スリラーの世界で「サスペってる」為る造語が有る。Dario ArgentoやMario Bava(後期)に代表されるジャーロの代表作「サスペリア」イタリア産スリラーの様な作品をサスペってると言いますが、本作は正にソレ。イタリア人監督Luca Guadagninoがリメイクしたサスペリアよりもサスペってる。「衣装」をモチーフにしたスリラーと言えば、Brian De Palma監督「殺しのドレス」ですが、もしDavid Lynch監督が「殺しのドレス」をリメイクしたら、本作の様なデコレーテッドに仕立てたろう。

監督の才能を正当に評価するイギリス映画界は、新作を全力でサポート。格調高いBBCフィルムズと英国映画協会が全面バックアップ。監督に「思う存分腕を振るってくれたまえ」と最大級の援護射撃を放つと、気を良くした監督は遠慮なく才能を放出。完成した試写を見て偏執的で官能的で唖然茫然。私も劇場で観ながら「こりゃ、ミッドサマーがデザートに見えるな」スリラー界のオサレ番長Ari Aster監督の後継者は噂通り。帰りに食べたネパール料理が全く刺激的で無かったのは気のせいかな?。

トロント映画祭で初公開され拍手喝采、争奪戦が繰り広げられると予想されたが、意外な事に北米では1社しか手を挙げなかった。そりゃそうだ"笑"、メジャーの多くは作品の良さを理解するも興業的に採算が取れない、と言うか実際は「ウチにも格ってもんが有ってね」と及び腰。唯一参戦したのがミッドサマー生みの親「A24」ハリウッドから一線を引いたニューヨークの独立系スタジオが、イギリスの奇才を正当に評価。アメリカでは「あのA24が惚れた!」とニュースで取り上げたが、勿論興業的には惨敗。しかし、配信での売り上げは好調でイギリスへの足掛かりも得た、ビジネス的にはしっかり成功。

設定が1980年代、作品で言えば「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせる。テーマ的にはイギリスらしいエクスプロイテーションに込められた冷笑、中身は宛らグラインドハウスの様相を呈してる。A24が買い取った理由は社会的メッセージが明確に込められてるからで、資本主義に対する滑稽洒脱、アメリカで問題視される「micromanagement」を、ホラー映画風に雄弁と語る。イギリスらしいシニカルな演出は、観客を悶絶させるエキセントリックも兼ね備える。したり顔で俺の作品を語るなどバカらしい、監督の笑い声も聞こえてくる。

最初に監督の作品に触れたのは忘れもしないレインボー・リール東京「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」(ゲイじゃないよ"笑"、青山に用事が有って立ち寄っただけ)「バーガンディー公爵」一風変わったサスペンスとの触れ込みだったが、中身はフェティッシュなLGBTQ。「観客はどう理解して良いか分らない」のは本作も同じだが、有り体に言えばコメディをホラー映画で作ると言うシンプルな結論に辿り着く。ベルギーの古典、イタリアのジャーロ、ドイツのエログロ、フランスのナンセンスなど、ジャンルミックスな示唆に富んでるが、古くて新しい普遍的テーマをデフォルメしたヴィジュアルに身を委ねるのが正しい鑑賞スタンス。

ご覧頂ければ分る通り本作は2部構成だが、監督は4部構成にするつもりが資金が足りず残念と語る。確かに2話目はプロットも冗長、ハリウッドなら90分にカッティング出来る。終盤の繋げ方も強引で、淫靡でカオスな雰囲気が一変するラストも評価が割れる。イタリアのジャーロをリスペクトする割には、ドレスの由来も描かれず、最初?の被害者の経緯も謎のまま終わらせたのは納得いかない。恐らく4話目で説明が為されるスクリプトを強引に120分以内に圧縮したと思われる。未完成でこの完成度は素晴らしいが、分り難さを装うのと本物のインテリジェンスは違う事も指摘したい。

本作はO.S.Tが素晴らしい。オルタナティブ・ミュージックのステレオラブに依るユーロラックとモジュラーシンセのコンバージョンは、Dario Argento監督の盟友Goblinを彷彿とさせるハープシコードの旋律がメチャクチャカッコ良い。「サスペリア」のO.S.Tと聞いても何ら違和感ない。此方で試聴出来ます(Spotifyのサイトに飛びます)
https://open.spotify.com/album/2T3mW9MRus7PVc5OsUq7AL?si=Ef2EEaH9R5qPmzJQZBVpGw&utm_source=embed_v2&go=1&play=1&nd=1
カッコ良いと言えばジャケットも。Filmarksは北米版Blu-rayを掲載、アメリカ公開時もこのデザイン。しかし、イギリス向けはOasisのジャケットを手掛けて有名に成ったジュリアン・ハウスのデザイン。インスタが此方
https://www.instagram.com/p/ByHiVoAljhu/
シネリーブル梅田でも此方をアレンジして飾ってた。センス良いわぁ~。

呪われたドレスは奇妙な狂言回し。第3者に理解され無くても構わない、私もそう信じてレビューを書いてます。
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