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幸せな男、ペアのAsinoのレビュー・感想・評価

幸せな男、ペア(2018年製作の映画)
4.0
デンマークを代表する作家でありノーベル文学賞受賞者でもあるヘンリク・ポントピダンによる自伝的大長編小説が原作。もちろん公開年のアカデミー賞デンマーク代表。

ペアは優秀な頭脳をもちコペンハーゲンの大学に入学を許されるものの、牧師の父親に期待されていた聖職に就かなかったことで勘当同然となり、経済的困難に直面することに。
彼は家族と決別し、工学の才能をいかして大成することを誓い、次々と支えてくれる女性は現れるのだけど、生来の頑なさが災いして上手く行かない。前半さんざん幸運な男と言われるのに、野心を果たせない彼の幸せとは?みたいな話(めちゃくちゃざっくり)

Filmarks とかだと主人公の身勝手な行動に非難殺到で評価下がってるきらいがあるのだけど。

敬虔な、という言葉は良い言葉のようだけど、ひたすら厳格で罪の意識ばかりが重い信心が「当然」の世界の、なんて息苦しく盲目的なことか。
冒頭、真っ先に連想したのは「バベットの晩餐会」でした。ユトランド半島の敬虔なルター派の牧師の息子として生まれた主人公の生家は、まさにハンマースホイの絵画の家、もしくは「バベットの晩餐会」の姉妹の家みたいなのだけど、あの映画もいい話ぽくできてるけど、もしあの村に生まれて親が決めた通り生きなきゃならないとしたらたぶん地獄。

才能があっても家族に理不尽に否定され続ける、優れたプランがあってもそれを実現する機会を与えられない、その機会を得るためには自分を捨てて権力を持つ者にへつらわなければならない。どれも地獄なわけで、でもこの話の主題はそれだけじゃなく。
人を愛することを知らない主人公に裏切られながらも、その経験から貧しい人に尽くすことにするヤコーベという聖女のような人がとても魅力的。
「恵まれない環境で育つことは人を損なう」という彼女の言葉も主人公の理不尽な行動の説明の一つになるだろうし、タイトルはきっと、最終的に自分の才能も周囲の人たちもなにもかも「自己実現のために使う」ことしか知らなかった主人公が、ようやく「誰かに与える」ということを彼女の行動から知った、その瞬間に掛かってくるのだと思う。あまりにも時間がかかったけれど。

裕福なユダヤ系一家(ヤコーベはそこの娘)との出会いが非常に大きな契機となるので、当時のコペンハーゲンのユダヤ教徒の贅沢で洗練された暮らしと、ペアの故郷のキリスト教徒たちの質素な暮らしの対比も面白い。
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