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ペサックの薔薇の乙女のCINEMASAのレビュー・感想・評価

ペサックの薔薇の乙女(1968年製作の映画)
4.0
 ジャン・ユスターシュの故郷であるジロンド県ペサックで毎年行われていた儀式<薔薇の乙女(=品行方正で、熱心で、家柄も良いペサック出身の女性)の選出>を捉えたドキュメンタリー映画。

 ミス・コンテストと異なるのは、<外見の美貌>を以ての選出では無いところだ。

 両作ともに、<薔薇の乙女>の各区の候補者推薦から投票選挙による選出、選出後の自宅訪問、その後に行われるパレードとペサック市長主導による公開式典の模様が捉えられている。どちらも、ほぼ同じ構成を採っている。これは構成の相似性・反復は、記録フィルムと、その模様を劇映画としてそのまま再構成した『不愉快な話』にも通じる。

 現在の視点からすれば、時代錯誤も甚だしいものと捉える向きもあろうが、民俗学的な見地からも、この記録フィルムは重要かつ貴重な資料であると言える。

 先程、「ほぼ同じ構成」と書いたが、1968年版と、その11年後に撮られた1979年版とでは<薔薇の乙女の選出ルール>が異なっている他、街の景観も相当に変化している。

 1968年時は<薔薇の乙女>に年齢制限は無かったけれど、1979年版だと17歳以上となっており、<14歳で、病弱な母親の代わりに妹たちを育てている見上げた女の子>は水仙されるも、結果として推薦枠の対象外とされる。また、1968年時は対象年齢の上限も無く、40代でも可という事であったが、1979年版ではそうでは無くなっている。また、1979年版では、パレードや式典の模様を見物する人たちが高層アパート(マンション?)のベランダに大勢居るが、1968年版では、そのような建物自体が無かった。その一方で、現前として変わらない部分もある。その<遷ろう点と遷ろわない点>の在り方もまた実に興味深い。

 そして、ユスターシュは、この慣例・儀式に対して批評的視座を一切持ち込まない。倫理的、あるいは道徳的考察も一切盛り込まない。ただ、ありのままをカメラに収め、観客に呈示するのみである。それゆえ、本2作品は純然たる記録作品としての一つの屹立を見せる。
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