静かな鳥

初恋の静かな鳥のレビュー・感想・評価

初恋(2020年製作の映画)
3.7
【試写会にて】
これぞ三池崇史。評価の色ムラ激しい三池作品群だが、今回はオリジナル企画で「やりたいことを存分にやってやった」やつだ。本気出した三池の面目躍如。即物的なバイオレンス、悪趣味ギャグ、素っ頓狂で豪快なアクション…。頗る威勢がいい。

余命宣告されたボクサーと訳あり少女の逃避行に、ヤバい連中の血生臭い企み(とその破綻)が絡んで出来上がる濃密な一夜の物語。夜は短し歩けよ乙女、暴れよ彼奴等、踊れよ白ブリーフ。人々は鮮やかに交錯し、純情で獰猛で破茶滅茶に入り乱れる。
群像劇として如何にも正統派な作りである分、役者陣に支えられている面が大きい。窪田正孝はひたすらにカッコよく、小西桜子はひたすらにかわいくて仔犬のよう。それに2人とも声が抜群に良い。また、このカップルをアブない事態へと巻き込むツラの濃い布陣にはむせ返る。前評判通り染谷将太とベッキーも楽しいが、個人的に1番好きなのは内野聖陽。あの厳つい佇まいから滲む渋み! 片腕で銃をカチャってするチャイニーズマフィアのボスも良き。そんな奴らが遂に一堂に会する場所のセッティングにもニヤリとしてしまう。

この映画を通じて三池崇史が見据えていたものの正体は明白であり、そこに彼の確固たる矜持をも感じる。つまるところそれは「仁義なき現代に任侠復活の狼煙を上げる」こと。映画界(ひいては世の中)から淘汰され居場所をなくしたどん詰まり連中をもう一度ステージの上に回帰させる。どうしようもない奴らがこの一夜だけは燃え尽きるまで燦然と輝く。その刹那と、かくして訪れる夜明け。Vシネで長年キャリアを積んだ三池だからこそ成し遂げたかったことなのでは。

不満としては、話運びにやや見受けられる鈍重さだろうか。クライマックスに至っても(群像劇の肝であろう)編集のグルーヴ感が今一つでもたつく。何というか間の悪さが目立った印象。あと、後半のとある情報開示(あの"留守電"のやつです)が、物語上れっきとした意味を持つのは重々承知しつつもあまり好きではない。まぁこれは完全に好みの問題だが。とあるシークエンスで日本映画の予算の無さが露呈してしまっているのも悲しい。全体的に振り返ると、海外の方が案外ウケそうな作品ではある(実際ウケている)。

パワフルな暴走列車の如く突き進んだ物語もラストではしっかりタイトルに舞い戻ってきてその振り幅に驚く。分かりきったことを延々と続けるエピローグにはうーん…と首を捻りながらも、あの静謐なラストカットのためと思えば許容範囲。「死ぬ気で生きた」からこそ辿り着けたささやかな情景。まさしく「さらば、バイオレンス」であり、スクリーンの純白はそっとやさしさを帯びていた。
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