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初恋のMASHのレビュー・感想・評価

初恋(2020年製作の映画)
5.0
新世代のヤクザ映画!久しぶりにこんなに純粋に「面白い!」と思える邦画に出会ったかもしれない(いうほど最近の邦画は観れてないが…)。三池監督の作品は好きだったし、予告編を観た時から期待値が高まっていたが、その期待をいろんな意味で超えてくる素晴らしい映画。海外にも様々な影響を与えてきた三池監督が柔軟にハリウッド映画の要素を入れつつ、あくまで日本でしか、そして彼にしか撮れないようなケレン味たっぷりの映画に仕上がっているのだ。

まず、驚いたのは役者の演技だ。全員が全員うまいというわけではないが、うまい役者さんとそうでもない役者さんの使いどころが非常に見事。大森南朋は安定の演技だし、窪田正孝の落ち着気のある演技と染谷将太の大袈裟な演技はどちらも非常にうまい。というか、ヤクザ側の役者さんは全員揃って演技がうまい(Vシネみたい)。そしてヒロインの小西桜子は演技は上手いとは言えないが、控えめな役なのでそこまで気にならない。そしてベッキー。体当たり的な演技でなかなか強烈。他の演技慣れしている役者さんに比べるとそうしても浮いてはいるが、キャラ自体がかなり漫画的であの世界観の中でも特殊なのでぴったりと合っているのだ。

前半は意外とスローペースだ。各登場人物の紹介と状況説明。普通だったら退屈に思えてしまうところだが、あくまでこれはその後に来る怒涛の展開のためのセットアップなのだ。これがあるからこそ後半のハチャメチャ感が存分に生きているのだと思う。また、スローペースとは言っても全く飽きることはない。この監督ならではの悪趣味さやなんとも言えないギャグが非常にうまいことハマっているし、徐々に話が盛り上がってきているのがわかるからだ。まるでジェットコースターで最初に登っているときのようなハラハラするようなワクワクするような、そんな感覚が味わえる。

そして後半はもうすごいことになっている。主人公とヒロインの逃走劇がメインかと思いきや、ヤクザ、裏切り者と汚職警官のコンビ、そして中国マフィアと、ただでさえキャラの濃い人達がぐちゃぐちゃな状況下で次々に殺し合っていく。正直ストーリーはそっちのけである。ヤクザや中国マフィアがヒロインのモニカを狙う理由は無くなってしまうし、誰が誰を狙っているのかというのもよくわからなくなっていく。だが、それを上回る圧倒的な熱量。カーチェスやら銃撃戦、殴り合い、刀での切り合いなど、とにかく勢いのキレのあるアクションの連続。予算がそこまでかかってないアクションでありながら、強いインパクトのあるシーンばかり。むしろ予算がないことを利用して面白い演出すらある。なんとも貪欲な作品だ。

この映画のすごいところはラストにかけてだろう。あれだけメインが誰かもわからない破茶滅茶だったストーリーが、うまいこと主人公とヒロインの物語、そして「初恋」という題名に収束していくのだ。いきなりラストですごく定番の演出というか、特に踏切のシーンなどはよくある展開ではあるのだが、それまでのはっちゃけ具合との対比が素晴らしい。普通だったらクドいとかクサいと言われかねない演出も、この映画ではバッチリ決まっている。そして最後の最後では何気ないシーンで締めるという。こんなのグッときてしまうに決まっている。

窪田正孝主演で『初恋』という題名からは想像もできないほど人を選ぶ作品だが、日本の映画の進化というものが見れる素晴らしい作品だと思う。どうしても日本の映画は予算が足りず、地味なドラマ映画が多くなってしまい、予算が出たとしても漫画原作の微妙なアクション映画というのが普通になってしまっている。だが、その中で予算の少なさを利用していく貪欲さと圧倒的な熱量によって、『初恋』は世界にも通用する日本のアクション映画になっているのだ。ヤクザ映画という日本独特のジャンルに新たな息を吹き込んだ快作。観るか悩んでいる人には是非見てほしい作品だ。
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