このレビューはネタバレを含みます
食材にゆっくりと温度を加えていく低温調理のような映画だった。
食べてみるまで素材のポテンシャルの高さに気づけない。
後半のある出来事以外は、14歳少女の生活のなかで起きる些細な事象が積み重なっていくだけだ。情緒的にならない、過度にセンシティブにしすぎない描き方によって主人公ウニの迷いや不安が観客にダイレクトに伝わる。
人によってはなにも起きていないと感じるかもしれない。
けれど少女には大小関係なく事件であり心を乱される出来事であったりする。
好きといってくれた人の心変わりや親友と思っていた子の裏切りは思春期であればなおさらだ 。
でもきっかけさえあれば心の回復も早い。この大人と子供の新陳代謝の対比も見事だった。
フェミニズムの映画という人もいるかもしれないけれど、決して男性を‘悪’としては描いていない。突如号泣する父と兄や、ウニの立場を理解した上で‘選択’させてくれた病院のおじいちゃん先生もウニを守ろうという姿を見せてくれる。
これはキム・ボラ監督の明確な意図だろう。
昨今の映画業界は人種差別やフェミニズムなどやっと声をあげられるようになった人たちの声なき声を反映したドラマが多いように思う。流行といっては下世話だけれど、その流れは確実にある。
見終わったあと、これはウニだけの話ではないと感じた。
その時代の韓国のゆらぎが、大人にも子供にも影響を与えていたという事実として映し出されている。
せっかくミステリアスに振り切ったヨンジ先生に煙草を吸わせるというステレオタイプの人物造形にしてしまったのが心残りなのだが…
それにしても韓国映画界によい風が吹いているのは間違いない。