ジェイコブ

ブラック・ウィドウのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ソコヴィア協定に背いた罪で、スティーブ・ロジャースと共に追われる身となったナターシャ・ロマノフ。長官ロスの追跡を交わしながら逃げ続ける彼女の前に、子供の頃に生き別れたエレーナが現れる。ナターシャはエレーナから、自分がかつて殺したはずのドレスコフ将軍が生きていること、今もレッドルームでウィドウを作り続けている事を聞かされる。ナターシャはドレスコフの陰謀を阻止するため、過去にバラバラとなった「偽家族」との再会を試みるのだが……。
MCUシリーズで数少ない超能力を持たない人間で、個性豊かなアベンジャーズのまとめ役ブラック・ウィドウを主役に迎えた本作。主演のスカーレット・ヨハンソンは本作でブラック・ウィドウを演じるのがラストとなるため、彼女のファンにとっては嬉しくも切ない作品である。
本作のテーマは家族の再生である。子供の頃、オハイオで偽家族と分かっていながら一緒に暮らすナターシャと、本物と信じて暮らす妹のエレーナ。大人になり再会した父役のアレクセイは過去の栄光にすがる情けない男で、母役のメリーナは未だドレスコフの手から逃れられずにいた。ナターシャのポーズをちょくちょくいじったり、アレクセイに対して悪態をつくエレーナが何とも愛らしい。洗脳された女のスパイに崩壊した家族の再生という、普通に描けば「HANNA」みたいな重苦しい内容になりそうな本作を万人に受け入れられやすい雰囲気にしたのはエレーナやアレクセイのキャラクターがあるからだろう。
本作の裏テーマは「贖罪」であろう。ナターシャがレッドルームを抜けるきっかけとなったのは、ドレスコフを殺すために彼の娘も巻き添えにして殺した時の「大義のためには罪なき者を殺しても良し」とする価値観への疑念である。彼女が殺したと思っていた娘が、やがてタクスマスターとなり、キャプテン・アメリカやホーク・アイ、ブラックパンサーなど、現在の仲間達の動きを模して彼女に襲いかかってくるのは、逃れられない過去の罪が現在のナターシャに課せられた試練である事を意味する。ラストでナターシャは、墜落する現場から襲われると知りながらもタスクマスターを助け出した。それはナターシャが過去を葬り去るのではなく、向き合って前進していく強さを持った事を表している。ナターシャ以外にも、妹のエレーナは自分を救おうとした恩人を自らの手で殺した事、アレクセイとメリーナは、偽物とは言え、自身の中でかけがえのない存在となっていた家族を蔑ろにしてきた事など、それぞれの贖いが行動の理由としてある。
エンドロール後のエピローグでは、妹のエレーナがナターシャの後を継ぎ、彼女の「仇」を討たんとする別の物語へ繋がっていく事を表している。ナターシャがこれまで命に替えても最も守らんとした「家族」という価値観が、彼女に死をもたらし、そして彼女の死をきっかけに新たな火種が生まれてしまったというのは、なんとも皮肉な話である。
本作を見終えた時の気持ちは、何だか同じMARVEL作品である「LOGAN」を見た時と似たている。それは両作が共通して、シリーズの中心的な存在の見納め作品であると同時に、どちらも家族をテーマに描いているからだろう。
何だかんだ、スカーレット・ヨハンソンの出演作の中で、一番好きな役だった。ありがとうブラック・ウィドウ。