ペイン

天国にちがいないのペインのレビュー・感想・評価

天国にちがいない(2019年製作の映画)
4.3
“現代のチャップリン”(※というよりはキートンの方に近いと思うし、もっと言うとジャック・タチっぽい)と称される名匠エリア・スレイマンによる10年ぶりの新作。この度、スレイマン映画初体験。

知人が予告編を見て、“このスレイマンのスカした佇まいとシンメトリカルな構図のつるべ打ちが鼻につく”と言っていて、なんかそれはそれでわからなくはないのだけれど(笑)、私はその見た目よりもずっとずっと本作に親近感を抱くことが出来た。

上記で挙げた作家以外でいうとロイ・アンダーソン、アキ・カウリスマキ、ジム・ジャームッシュ、邦画でいうと山下敦弘、沖田修一らの作品が好きな人は高確率でハマりそう。キャッチコピーの“この世界は、かくも可笑しく愛しい。”というような文字通りの作品で、アイロニーとユーモアに満ちた詩情豊かな一編。ただこうした言わばオフビートな作劇は、下手な監督がやると本当に寒々しい感じになってしまいかねないと思うけれど、本作は非常にうまくまとめられていた。

また、地下鉄車両内で両腕タトゥーいっぱいの男が缶チューハイらしきものを飲みながら主人公を睨み付けるシーンや、主人公がデスクワーク中に何度も近寄ってくる小鳥をどかすくだり、警官に追われる謎の天使のくだりなど愛おしいが詰まっている。また、ガエル・ガルシア・ベルナルや、『トム・アット・ザ・ファーム』以降のグザヴィエ・ドラン作品のプロデューサーでもあるナンシー・グラントも本人役で出てきたのも嬉しいサプライズ。本作は傑作にちがいない。
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