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天国にちがいないのslowのレビュー・感想・評価

天国にちがいない(2019年製作の映画)
4.1
これは大笑いできるコメディともまた少し違う、でもジャック・タチの系譜と言っていいのかもしれない。絵的にはロイ・アンダーソンのようなところもあり、風刺とも取れるシーンの数々はオストルンドを想起させる(オストルンドはもっといやらしく撮るだろうな)。別に比べるものでもないけれど、個人的にはこのエリア・スレイマンの作品はどちらよりも自分好みで居心地が良い。主人公(エリア・スレイマン)が示すように、この映画は言葉で語るよりも、映像で語る部分が多く、そういう意味ではサイレント映画にも近いと思うし、そこにもやっぱりタチイズムを感じずにはいられなかった。
実は最初、なかなか引き込まれなかった。でも監督のインタビューなどを読み、じわじわとスレイマンという人に興味が湧いて来ると、印象もじわじわと変わってくるもの。小津好きを公言し、その愛を嬉々として語る監督は多い。スレイマンもその一人。監督の作品にある意図的な余白には、観る人が各々の解釈でイメージを膨らますことができるよう、そんな想いが込められているとのこと。それはスレイマンが小津から学んだひとつの美学なのだろう。
淡々と過ぎる日々の、凡ゆる観察から生まれるスレイマンの表現。彼はこの映画の最初から最後まで、ずっとある感情の中にいたのではないか。時間は待ってくれないのに、時間にこびり付いていたにおいは、いつまでもそこにいて、別れ方がわからない。しかし、彼は世界を見ることで、ひとつの別れ方に辿り着いたのだと思う。風刺云々はそれとして、自分はそういう風に本作を受け止めた。天国にちがいない。
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