そこには、ただ静かに沈黙のことばが溢れていた
沈黙とは、静寂や無音を意味するのではない 沈黙は、炎の揺らぎや海の漣、キャンバスを走る筆のかすれた声たちの、掻き消されているいのちの声をあらわにする
劇中、沈黙が訪れるたびに、掬い取りきれぬほどの無数の声がわたしに迫り、きこえないけれど"聴こえる"と、生の感覚があった
逆に劇末、突如流れはじめたヴィヴァルディの大音響のなかで、わたしは不思議なほどに静寂を感じていた
数ヶ月前にオルフェを観たとき、わたしはメモをとった
なぜそれを選んだのか、そしてなぜそれだけを記したのかわたしにはわからない
そこには"沈黙は後退する"とだけ記されていた
映画が終わった瞬間、その言葉だけが頭のなかに浮かび、燃えているようだった
これは偶然なのか、必然なのか、どちらにせよ、まさしくこの作品は"沈黙の後退"が描かれていた