mimitakoyaki

燃ゆる女の肖像のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.3
今年はコロナで映画館からもすっかり遠ざかり、新作映画の情報にも疎くなってしまってますが、近くの劇場でやってたので久しぶりに観に行ってきました。

恐らく今年最後の劇場鑑賞になりそうですが、ほんとに映画館で観れて良かったです。
とにかくどこをとっても美しい。
荒々しい風景も寂しげな屋敷も照明も女性達の表情をつぶさに捉えるカメラも静けさも、どれもこれもが素晴らしい。
セリフも音楽も少なくて静かなのに炎が燃えあがるような熱を秘めた作品でした。

ドラマや映画で自分の気持ちを独り言でつぶやいたりなど、やたらとセリフで説明する作品がたくさんある中で、こんなに言葉に出さなくても、交錯する視線や表情、人物の配置などで、関係性や心情の変化を鮮やかに捉えることができるし、このような高度な演出や映像は本当に芸術の域だと思います。
とにかく素晴らしい映画体験をしているという喜びを感じられました。

貴族の令嬢、画家、召使いという立場の違う3人の女性が、それぞれ男性優位社会の中で、尊厳を傷つけられ、自分らしく生きることなんて到底許されずに閉じ込められ、男の所有物としてや男を支える役割の中でしか生きられない苦しみを抱えています。

心に秘めるだけしかできない本来ありたかった自分のことや、誰かに決められた生き方しか許されない怒りや哀しみを、互いに理解し分かち合う女性たちのシスターフッドに心を打たれるし、哀しくも優しくてほんの短い時間ではあっても安らぎを感じさせる台所でのシーンや、堕胎する一部始終を辛くても目に焼き付け、再現し描くという行為の中にも女性達の強い連帯を感じ、その力強さに心惹かれたし、彼女らをとても愛おしく思えました。

マリアンヌはお見合い用の肖像画を描くために細部までエロイーズを良く観察し、見つめ、捉えるうちに段々と彼女に惹かれるようになっていくのですが、エロイーズからも実は見つめられていた(思われていた)とわかるわずかなセリフや、情熱や衝動の瞬間を捉える視点もしっとりと美しく、でも秘めていたものがついに溢れ出すときの燃え上がる感じなど、映像で繊細に表現されていて、本当に素晴らしかったです。

お見合いは避けられず、エロイーズは見ず知らずの男性と強制的に結婚させられることを受け入れるしかないのですが、マリアンヌがエロイーズに再会するラストがまた鮮烈でした。

お見合いのための肖像画、妻や母親としての肖像画、そんな閉じ込められた肖像画の中にも、確かに「わたし」が存在し、「あなた」も存在し、強い想いが伝わってくる。
2人にしかわからない合言葉のようなそれを見つけたら堪らないですね。

こっちを見つめなくても確かに伝わる愛があって、思うような人生でなくても、それを胸に大事に抱きながら女たちは生きていくんだなと思いました。

エロイーズはどこかで見たことあると思ったら、ダルデンヌ兄弟の作品に出てました。
お嬢さんって歳でもないですが、はじめは硬い殻があって眉間にシワもあって仏頂面でしたが、どんどん表情が変化していくのが魅力的でした。

マリアンヌ役の人は、エマワトソンと梅宮アンナを足したような顔で、キリッとして意志の強さを感じさせる佇まいが良かったです。

これから誰かの肖像画を見るたびに、その人の人生について思いを馳せたくなりそうです。

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