AkikoNakayama

燃ゆる女の肖像のAkikoNakayamaのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.0
芥川龍之介の『地獄変』という短編をご存知だろうか。火にかけられた愛娘の美しさに目を見張り、命を助けるよりも創作を選んだ絵師の話だ。芸術の創り手はつねに観察者であり、そのくびきから逃れることはできない。

本作もまた、そうした芸術家のありようを描いている。間をたっぷりと取った長回しは、主人公マリアンヌの「観察者の目」を追体験させるかのようだ。モデルのエロイーズが波に攫われようと、炎にまかれようと、目を離せない。作中でも、詩人オルフェウスの妻との別離に触れるくだりで、マリアンヌが背負う業を示唆している。

しかし、ふとしたきっかけでマリアンヌとエロイーズの「観る者」「観られる者」という対立は崩れてしまう。本来なら存在しえない境界の揺らぎ。そこで生まれる恋情は、性をもやすやすと超える、甘美で美しい禁忌だ。
どのシーンを切り取っても、ジョルジュ・ラ・トゥールやフェルメールの作品を思わせる、絵画のような画面作りがすばらしい。二人の儚い蜜月を永遠に閉じ込めようとするかのように。この一時だけは、彼女たちは同じ画面に描かれた一幅の絵画の登場人物であり、境界とは無縁であるーーと言わんばかりだ。
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