おさも

燃ゆる女の肖像のおさものレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.2
予告編でなんとなく想像した、女性同士の恋の話という印象を、いい意味で裏切られた。公共圏と親密圏の間の話であり、ハッピーアワー的な女の群像劇としての性格を持っている物語だった。

あらすじ
舞台はたぶん18世紀くらい。画家のマリアンヌがフランスの地方のいい家のご婦人からその娘、エロイーズの肖像画の製作を頼まれる。肖像画の製作は縁談のためだが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいる。(エロイーズ自身も元々修道院に預けられていたのが、不本意ながらある事情で呼び戻されることになり、家に半ば閉じ込められている)
そこで、マリアンヌは画家であることを隠してエロイーズに接近し、肖像画を完成させる。しかし、その肖像画を見たエロイーズは、それが自分を全然捉えられていないと抗議し、自分がモデルとして再度肖像画を描き直すことに協力することを申し出る。その過程で2人は恋に落ちていくが、肖像画が完成すれば、マリアンヌは帰り、エロイーズはミランへ行かなければならない…






物語の前半は、マリアンヌが職業画家としてエロイーズを冷静で客観的な視線で観察する。それはどう上手いこと結婚の引き出物にふさわしい肖像画を作り上げようか、というビジネスライクな視線だ。逆にエロイーズの方もマリアンヌを同様の乾いた視線で観察し返しているのだが、公共圏の視線、とでもいえるようなものの交錯の緊張感が非常に締まった画面を作り出していて、一気に引き込まれた。

転じて後半では、引き出物としては十分だったはずの肖像画を、出来栄えとして優れたものではないとマリアンヌが自ら否定したことで、エロイーズとの友情が芽生え始める。家と家の関係のなかの役割の中に押し込まれるだけでない、エロイーズの個人を尊重しようというはねかえりが、2人の関係を親密なものへと推し進める。
後半の物語の中でもうひとつ重要な要素として、召使いのソフィーの存在がある。事情は詳しく語られないが、妊娠した彼女が子どもを堕す手助けをマリアンヌとエロイーズがすることで、3人の関係が友人関係へと発展していく。(彼らがカードで遊ぶ場面は、ハッピーアワーの有馬温泉で麻雀をするシーンを強く連想させた。)それは、ジェンダーによって傷つく女性が互いをケアする親密な関係だ。

個人的にはマリアンヌとエロイーズが恋愛感情を抱くに至る経緯をもうちょっと丁寧に観たかった。彼女たちの性的なシーンは、それはもうとんでもなくエロく、女性監督だからなのかわからないけれど、それはもうとんでもなくエロい(笑)。観てくれ。


その親密な関係も、やがておのおのが公共圏へ帰っていくことで瓦解していかざるを得ない、ということがオルフェウスのイメージを通じて象徴される。それは死である、というメッセージは非常に強いものだなぁと感じた。


マリアンヌとエロイーズが別れた後の後日譚も、非常に感じ入るものがあった。
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