セサミオイル

燃ゆる女の肖像のセサミオイルのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.5
冒頭、新鮮な印象を受けた。
小舟で沖を渡るシーン。舟もカメラも揺れる。70年代の日本映画でしか見たことないよ小舟で沖を渡るシーンなんて。そしてのちに知る事になるこれが傑作映画の冒頭だという事を。この舟は観客を乗せて特別な世界へ連れてってくれてる舟でもあるのだ。
そして久しぶりに観たよ、こんな映画らしい映画を。映画の懐の深さというのは、余白や行間でなくて映像の影だと思ってて画面の影が濃いほど、その暗くて見えない部分に観客は自由なイマジネーションを働かせるのだ。
映画らしさでもうひとつ言えるのはスクリーンで観てこその絵作りになってるかという事。
映画の舞台は孤島なので海辺のシーンが多い。殊更美しく映し出された浜辺や岩場、夕焼けのシーン。これをホームシアターで見ちゃうのはもったいない。
主役の2人は背が高くトラディショナルな衣装がよく似合う。そんな2人が浜辺を歩き風景の中に溶け込んでゆき画が完成する。
引き画も人物アップもどっちも美しい。
ただただ見とれてしまうほど。

映画が始まってしばらくしてからBGMが無いことに気づいた。最近のエンターテイメント映画を考えたらとんでもない事だが、それに気付かなかった事に驚いた。BGMなしで映画が成立してたのだ。これって中々の話しだと思う。

映画の中では3曲ほど楽曲が使われていたが、BGMというよりは劇中実際に演奏・歌唱された音楽だった。これがまたエレガントでアクセントとしてとても効果的だった。
音量の振り幅が広い音楽なのでこれも映画館で体験したい。
映像的にはホームシアターでも没入感は得られるかも知れないが映画館の音量だけは中々真似できるものではないだろう。
(一度『フォードvsフェラーリ』の音の迫力を家でも味わえないかと試したが余裕の大音量というのは土台無理でした。)
なんか話が映画論みたいになってしまいましたが、それほど映画らしい映画だということが言いたかった。

主役の2人は純粋で、苦悩を抱え抑圧にも晒されてはいるが自分に嘘はつかない。しおらしいとか古風とか行儀が良いとか、そういう周りを気にして取り繕った表面上の洗練とかでは全然なくて、
ただただ強く自分を信じて生きている。そして同じくらい愛する人のことも信じる。
そういう生き方に美しさと揺るがなさを感じて惹かれてしまった。

ストーリーや演出に関しても多くを語ってしまいそうだが驚きと共にご覧になって欲しいので割愛!
感想も殆ど言葉に出来てないなーと思いつつこの辺にしときましょう。

監督は『水の中のつぼみ』もそうか!共通項を感じるなぁ。
『燃ゆる女の肖像』という題字、フォントデザインの肖という字の点々が2人を表してる。