晴海通り

燃ゆる女の肖像の晴海通りのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.0
タイトルにある通り、照明としての火の使い方が印象的。中世の絵画がおおよそ暗いのは、単に照明がなかったからだと思い至る。それこそ印象派が屋外で筆を取るまで、人物画も静物画も対象以外はぼんやりと暗かった。中盤の、女たちが焚き火の周りで歌うシーンは絵画そのもの。暗示的で寓話的。

主演2人は顔の骨格も仕草もどことなくマニッシュ。宝塚の男役を思わせる。修道院にいたお嬢様と異性経験のある絵描き。そこに混じる召使が1番小柄で女っぽい。

画家としての観察から、思いを持った眼差しへ。愛撫した肌を再びなぞるように、キャンバスに絵筆をすべらせる。

〽︎憎んでも恨んでもいいから忘れないで

もしかしたら、愛を経たあらゆる関係が求めることなのかもしれませんね。冥府に引き戻されたオルフェウスの妻のように、「消えてしまっても、愛されたのなら構わない」といつの時代も人は思うのだろうか。

照明はおろか通信機器や写真もない時代、共に聴いた音楽や一緒にかいだ海の匂い、絵の具や肌の匂いはどれだけ深く強く記憶に刻まれるのだろうと思う。限られた時間をどれだけ濃密に過ごし、離れた後も繰り返し思い起こすのだろう。五感に訴える作品でした。
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