bluebean

燃ゆる女の肖像のbluebeanのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.5
映像が完璧に美しいです。全ての画面が一枚の西洋絵画のように仕上がっています。室内のシーンでは、背景も含めてピントを合わせた上で、人物の肌を照明で滑らかに見せていて、本当に絵画のよう。特に夜のシーンでは照明を絶妙にコントロールして、明暗技法のキアロスクーロを再現しています。総じて、オランダ黄金期の絵画を見ているようでした。短く切られたセリフのフランス語の響きがまた美しいです。

見る側と見られる側が転換するシーンやラストシーンに代表される目線の演出。タイトルにもなっている炎のシーン。肖像画の進捗と出来に心情を象徴させたり、オルフェウスの神話の解釈に絡めたりといったメタファー。セリフは必要最小限にして、そういった演出面でストーリーを語ります。展開の静かな作品ですが、とても引き込まれました。

ストーリーの主軸は報われない恋という定番です。肖像画の完成が恋の終わりを意味するという状況設定が切ないです。そこに、抑圧された女性というテーマが織り込まれています。屋敷に女性しかいない状況での束の間の解放。同性愛ゆえに許される純粋な恋愛。それが肖像画を運びに来た男性が屋敷に入り、まるでエロイーズを木箱に閉じ込めるようにして持っていくシーンではいっきに崩れるのが衝撃的です。

性的なシーンがうまく間接的に表現されているのも見事でした。肖像画の肌の部分に筆を乗せるシーン。脇に指で薬を塗るところをアップに。裸を描く場面で鏡で隠してそこにマリアンヌを映す、などなど。ドキッとしますがいやらしくないです。

一方、自分の読解力が足りず、演出面で捉えきれなかったところも多々ありました。堕胎時に隣に赤ん坊がいる意味。その後に絵にする意味。白ドレスのエロイーズの幻の意味。海に入っていくシーン。ソフィの刺繍をアップにする意味。いつか再鑑賞して読み解きたいです。

完璧に美しい芸術作品でありながら、演出はとことんロジカルで綿密。傑作です。
bluebean

bluebean