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燃ゆる女の肖像のUTOのネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

暖炉の火が爆ぜる音が大きく聞こえるほど誰かが声を荒げるようなこともほとんどなく映画は淡々と進んでいく。
しかしマリアンヌがエロイーズの母に「彼女は怒っているだけです」と言ったりエロイーズ本人も認めているように、声を荒げるような激しい怒りではないが内に押し隠した女として生きていく上で生じる理不尽さ、不自由さ、そして明確な"区別"への静かな怒りを映画全体からひしひしと感じた。
個人的に1番印象に残ったのは家政婦?のソフィが堕胎をするシーンだった。最初は生理が来ていない、エロイーズの母がいない間に堕すつもりだ、ということを淡々と言っていたため、あまり赤ん坊を堕ろすことに抵抗はないのか、と思っていたが堕胎のために限界まで走ったり変な薬草飲まされたり宙吊りになって落っこちたり、とにかく大変な思いをしている。現代の中絶の方法がどういうものかあまり知らないがそれでもこの方法よりは言ってしまえばもっと簡単にできてしまうものだと思う。こんなに色々試すということはそれだけ明確にお腹の中の赤ん坊をコロしているという自覚をずっと強く感じてしまいそうだと思っていた。そんな矢先、実際に子供を堕すとなった時まさかのその場所に子供がいて、しかも赤ん坊までいるのが本当にきつかった。産まれてくるはずだった赤ん坊を堕している自分を幼い命が見守って、しかも戯れてくる。ソフィが実際どう思ってたかは知らないしその辺りの事情は何も説明されなかったのでわからないが、赤ん坊に手を握られたソフィが涙を流しているのをみて、私も涙が止まらなかった。そして父親まじでどこ行ったと1人むかついてた。

最後のシーンもとても印象的だった。真剣にオーケストラの演奏を聴いているエロイーズを長回しで撮り続けている映像だが、エロイーズの表情の変化が本当に見事だと思った。最後の夜マリアンヌが「悔やむよりも思い出して」といったように、エロイーズはマリアンヌが好きだといって弾いたあの曲を聴いて思い出していたんだろうか。
役者さんたちの演技力もただただすごいと思った。心に残る映画でした。何度でも観たい。
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