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燃ゆる女の肖像のNMのネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

メインテーマは恋愛だが、それ以外にも色んな背景が描かれているもりだくさんな作品。
もちろん恋もかなりロマンチック。
大げさな表現がなく、かえって感情が伝わってくるしこちらに想像の余地が与えられている。

困難な時代にあって力強く生きる女性たちを描いている。
仕事、友情、愛、自由。
姉の代わりに知らない人と結婚させられるたり、仕事で成功するしかない状況だったり、恋愛の責任を押し付けられたり、それぞれ社会に縛られて生き逃れられない。
身分が高くても低くても思うように選択できない。
現代の女性にも共感するところがたくさん。

全体的には静かな作品だが、中盤は手に汗握る展開。
というか歌のシーンや花嫁姿をありありと想像するシーンはホラーかと思うほどで、集中が途切れる。
ラブシーンは激しい描写がないのにかなりセクシー。

絵のことは隠さなければならないのにマリアンヌの警戒が低くてはらはらする。バレたら台無しになるのに。

第一弾の肖像画が似ていないと指摘されるシーンを見返したらマリアンヌが額に手を当てていて、よくできているなと感じた。

エロイーズは悲しくても怒ってもなかなか態度に出さないのが上品。
母親もそうだが、語気を強めたりせず冷静に指摘したりとりあえず席を立ったりする。
マリアンヌのように相手に直接八つ当たりしたりマウントを取ったりしない。

メイドのソフィーも良い。オルフェウスを聞いて、ひどいと率直な感想。
エロイーズたちとは違う魅力がある。それぞれの良さ。
そして中絶しか道のない立場。処置のときベッドに可愛い赤ちゃんが寝ているという強烈な皮肉に言葉もない。
そして何も知らない男。ソフィーに給仕をさせて飯を食い、マリアンヌにこんにちはと挨拶してくる。
この作品は男性の存在がとことん薄い。男性不在のまま女性たちがあれこれと動き回っている。

オルフェウスになぞらえているストーリーも洒落ている。
連れ出してほしいがそれが無理なことは分かっている。せめて私を目に焼き付けて忘れないでいてほしい。
あの人が称賛していたミラノの音楽。それを観るときは私は一人きりだろう。

細かい点だが、エロイーズが自然な肌をしているのに対しマリアンヌはファンデーションを厚塗りしたような肌で違いが気になった。同じように見せる工夫はできたはず。逆なら立場の違いという意味で理解できるかもしれないが。
海風に吹かれてもマリアンヌだけ一切乱れがない。なぜなのか。
あとスカーフをマスクとして使う時の巻き方がおしゃれ。女性のドレスのポケットの使い方も興味。

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フランス。
絵画教室で画家のマリアンヌがグリーンのドレスを着て自らモデルとなっている。
視界に入る、足元から炎の上がった女性の肖像。
思い出すのはあの忘れ得ぬ日々。

荒波に揺られて辿り着いたのが今回の仕事先。
断崖には波が打ちつけ浜辺には絶えず強い海風が吹きすさんでいる。
依頼主はこの屋敷の女主人。彼女がここに嫁ぐとき肖像画を描いたのがマリアンヌの父親だった。

ミラノへ嫁ぐ娘エロイーズの肖像画を描いてほしいという。結婚の贈り物。
娘は何も知らない相手との結婚を嫌がっている、結婚のための絵だとバレると拒否されるから、散歩の相手だと思わせてその間に娘を観察してほしいと頼まれた。
できるかと問われ、画家ですからと返事をするマリアンヌ。
挑戦を受けるかのような態度。自分の腕に強いプライドがある。
前に来た画家は結局描けなかったらしい。

エロイーズの姉は結婚が嫌で、崖から海へ身を投げた。
そのせいでエロイーズが繰り上げとなり修道院から戻されたのだった。
エロイーズは母から外出を禁じられていたので、散歩を楽しみにしていた。
知的で感情を押し込めているような大人しさ、そして反抗心や怒りのようなものも感じる。
なぜ外へ出る自由すらないのか。姉が嫌で死んだのにどうしてまた私を結婚させるのか。
親に抗議できるような家ではない。

二人は散歩を通して距離を縮める。
エロイーズは少なくとも家に戻ってからは友人はいなかっただろう。
教会へオルガンを聴きに行くというエロイーズに、ミラノは本場だと教えた。

前の画家が残した、顔の塗りつぶされた絵。
マリアンヌが夜中ろうそくをかかげて隅々まで見ていたら絵に火が着いてしまった。
そのまま黙って暖炉に入れるマリアンヌ。
エロイーズを描くのは私だ。

絵は完成。自信作。
マリアンヌは依頼主の母親に、真実を告げて絵は先に本人に見せたいと語る。
散歩中エロイーズに告白すると、凍える海へと入っていった。
燃え上がる怒りを沈める行為であり、静かな抗議。

本人に絵を見せると不思議そうな顔。私はこんな風に見えるかと問う。
内面を捉えておらず自分に似ていないと感じた。
マリアンヌはあなたに絵が解かるのかと言い返し、とっさに絵の顔部分を拭い去った。
母親が描けないなら出て行くよういうと、エロイーズがモデルをするから彼女を残すよう頼んでくれた。
家を留守にする5日間の間に描くよう期限が延長。

到着した日から色々とマリアンヌに気を使ってくれていた若いメイドが、妊娠していることを告白。
女主人がいない間に降ろしたいと聞いて、マリアンヌは色々と策を練る。その経験があるらしい。
話を聞いたエロイーズにそのときどんな気持ちだったか問われ、マリアンヌは黙りそして何かを思った。

メイドの体を気遣い、マリアンヌとエロイーズは仕事を手伝う。
身分を越えて三人でいる時間が増えた。

デッサンの時間。
筆が進まずマリアンヌは苛立つ。
エロイーズに注文をつけ、エロイーズの表情やしつさを分析してみせた。
観察する立場ですので、と傲慢さを覗かせる。
するとエロイーズは同じだけマリアンヌのしぐさの指摘をした。

三人でカードをして笑い、暖炉の前でオルフェウスを読む。
冥府まで妻を迎えに行き、振り返ってはならぬと言われたのにあと一歩のところでつい見てしまう話。
エロイーズは、妻は振り返ってほしかったのかもと語る。

夜、メイドは島の年長者に堕胎の相談に行き2日後に予定された。
島の女たちは焚き火を囲んで集まっている。
エロイーズが火に当たるとスカートの裾に着火した。
エロイーズは身じろぎもせず、同じく燃えるような視線でマリアンヌを見つめる。
気づいた女たちが急いで火を消す。
目を奪われその表情が焼き付いた。

翌日。
もつれるように崖を降りている二人。岩間に隠れて口づけする。
お互い社会に抗い独りで生きていかなければならない二人。
距離は最大限に近くなり、絵は完成。

気持ちは通じ合ったもののエロイーズは嫁ぐ身。
マリアンヌは夜になるとエロイーズの花嫁姿を想像していた。
その切なさを口にするが、かといって結婚を止めるわけでもない。
エロイーズはその勝手さを泣いて咎めた。

母親が帰宅。
絵の出来栄えに納得、マリアンヌは無事代金を受け取った。
エロイーズは母の買ってきたウエディングドレスを試着させられている。
支度をして別れのハグに来たマリアンヌは、顔を見ることもできず逃げるように走り出した。
エロイーズが追ってきて「振り返ってよ」と言う。
一目見て、強くドアを閉めた。

後日。
美術展でエロイーズの新しい肖像画を見かけた。
微笑み、子どもも傍らにいる絵。
手元の本は28ページが開かれている。そこはマリアンヌが彼女の肖像を描いたページだった。

別の日、舞台を観に行ったマリアンヌは遠くの席にエロイーズを見つけた。こちらに気づかない。
大粒の涙をこぼしているエロイーズは微笑んでもいた。
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