シンプルな絵作りだが非常に骨太な作りなので鑑賞に耐えうる。
男をほとんど出さずに男社会で抑圧された女性達が淡々と描かれている。しかしその様に見せながらも画面に映る炎の大きさが徐々に大きくなってる事に気づく。
彼女達の心情のメタファーとしての炎が中盤の祭りのシーンでは文字通り服に火が付いてしまう。
それと同時に隠していた感情が溢れ出る展開が見事。
BGMがほとんど無い環境音に女性達のコーラスが沁みる。
メイドの堕胎がリアルに描かれていたり愛し合っても世間体の為に感情を押し殺すのが普通という惨さ。エロイーズの姉の自死のくだりから死の匂いがしてハラハラしたが、まだ死んだ方がマシで彼女達は生き地獄を選んだのだという苦悩が心揺さぶられる。
堕胎してる傍で赤子が手を繋いでくる残酷さ。
他の画家による肖像画に描かれた28ページの秘密のメッセージやラストの長回しの感極まる演技が全てを物語っていた。
マリアンヌとエロイーズの演技が素晴らしい。ほぼ無表情の出会いから別れの瞬間までの表情までエモーショナルな芝居に惚れ惚れしながら観た。
こういう題材なので性欲の発散の見せ方は避けられないが、サラリと描かれてイヤらしく見せない上手さ。
それまでの映像の美しさも相まって神々しく感じた。
怪しげな薬をワキ毛に塗ってトリップとか危なっかしさも若者故の愚かしさもリアル。
終始重たいシーンばかりでなくトランプに興じたり読書会で意見交換したりと女子会の様なほっこりするシーンもあってからの辛い現実シーンが切ない。
肖像画やクロッキー、簡単なスケッチなど様々な技法が観れて良かった。
特にエロイーズの股間に鏡を置いて自分の裸体をスケッチするシーンは秀逸。
冒頭の手漕ぎボートから木箱が落ちた時に男は誰も手伝わずマリアンヌ自ら海に飛び込み取りに行く所から世間の荒波に抗う作品の始まりを告げていたのだと痛感。