いずみたつや

名もなき生涯のいずみたつやのレビュー・感想・評価

名もなき生涯(2019年製作の映画)
4.5
断固としてヒトラーへの忠誠を誓わない主人公に対して、「もっとユーモアを持て」と言う村民のセリフは非常に腹立たしかったです。

目の前の理不尽な要求に疑問を投げかける人、認められない行為に拒否を示す人に対し、「カッカするなよ」「マジメだなぁ」といった言葉で、何も考えず”ルール”をただ守ることがさも「できる人間の振る舞い」であるかのように諭すのはとても醜いことだと思います。

ルールをただ守ることに慣れてしまうのは楽だし、長いものに巻かれることは安全かもしれないし、僕自身どうしてもそうなりがちですが、その最悪の結果としてホロコーストの大虐殺があることを思うとゾッとします。

戦争のように「普通」を守ることが極めて難しい状況で、命をかけてでも「普通」を貫く主人公と、それを理解し受け入れる妻の姿は本当に尊いものがありました。

「名もなき生涯を送った普通の人々のお陰で、物事がさほど悪くはならない」という言葉は胸を打ちます。

それこそトイレットペーパーを買い占めないとか、遊びに行きたいけど家で過ごすとか、多くの人の「普通」に物事を悪くさせない力があることを示さなければいけない状況にいる今、一層響くものがあるかもしれません。