本作はいわば警察密着24時のように、観客は新参者である警官ステファノの目線に立って、犯罪多発地区を「のぞき見ツアー」するかのような形式なんです。
マリ系である監督自身がこの街の出身といことで、何よりもリアリティ、写実性を重視したタッチになっており、映画的な派手で出来すぎな展開はありません。淡々と、冷徹に、フラットな目線で物語は進行します。
しかーし、写実的すぎるがゆえに、展開が慎重すぎるきらいがあり、開始後45分過ぎになるまで事件らしい事件が起きません。これには「何も起きんのかい・・・!」と痺れを切らし始めた僕がいました。最初の「事件」後も煮え切らない展開がじりじりと続きます。
『パラサイト』や『ジョーカー』が現実の社会問題をエンタテイメントとして【表現】してみせ、なおかつそれが映画としての売りになっていたのとは対照的です。本作は表現よりも「現実をありのままに伝える」ことに重きが置かれているように思いました。
問題提起を表現で料理するのではなく、問題提起を加工せずに産地直送するタイプの映画なのです(なんだこの例えは)。
なので、これはもう観客の好みの問題です。素材の味を生かすオーガニックな料理が好きなのか、様々な調味料でしっかり味付けした料理が好きなのか、みたいな話です。乱暴に言うと、ですが。
僕はタイ料理のように甘くて辛くて酸っぱい混沌とした料理が好きですし、映画もまた大げさでコッテリした内容のほうが好きなのです。
もちろん、問題提起があることは意義深いですが、それをどのように表現するのかが、映画を芸術たらしめる部分だと思うので、あまり写実的だと物足りなく感じるというのもあります。