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家族を想うときのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
3.5
[不在配達が問題になるのかと思った] 70点

前科があるとか短気で喧嘩っ早いとか、そういった"嫌煙される"これといった特徴もないのに貧困に悩まされる、配送ドライバーと介護士として共働きの両親、問題を起こしがちな高校生息子、優秀な小学生娘という実に普遍的でありふれた家族の物語である。彼らは家族を愛し、ひたむきに努力している"模範的市民"であるが、どん底へ落ち続けていく。物語だけを見ると、その強烈な悲惨さには心が重くなる。当たり前になっている利便性の裏には、数多くの人間が犠牲になっているのだ。彼らは酒に溺れることも麻薬に手を出すこともない。パブで酒を引っ掛けたり、高価な麻薬に手を出すほど金も時間もないし、そんなこととは無縁の生活を送っている純真無垢な市民なのだ。遂に品行方正に生きる正直者な彼らまで苦しめられる時代がやってきたのだ。そして、本作品における悪役は間違いなく上司であるが、彼とてノルマが達成されなかったり、評価の低いドライバーを抱え続けたりすると別の人間に変わるだけであり、悪人ではないのも中々に辛い(彼の人間性を感じる描写は一切なかったが)。

反面、映画として観た場合、本作品には台詞が多すぎるきらいがある。今置かれている危機的状況やそれに対する感情を何度も何度も実況のように繰り返してダメ押ししてくる。加えて、配達ドライバーや介護士の労働状況、放置される老人たち、非行少年、家族愛などテーマが多過ぎて対応しきれていないのも事実だ。このように数多くの問題を積層させていった上で、ケン・ローチなりの答えを提示するのかと思えば、"それでも人生は続く"と言わんばかりに暗転してしまう。犠牲者の報告に徹し、それを貧困というテーマを盾に正当化しようとしているのはちょっといただけない。

それでも、現実世界に落ち込むには十分な作品だ。私はphantasmagoricalな映画の世界にさっさと逃げたかった。
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