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家族を想うときのTAMUのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
4.3
現代版「蟹工船」。労働者階級を描く映画の名手ケン・ローチの最新作。
個人的に『私はダニエルブレイク』がだーい好きなのだが、本作ではユーモアも控えめに、より深刻となったイギリスの労働者と、その家族を描く。

いわゆる平凡な家庭に浮かび上がる社会問題の切り取りが、本作においても秀逸。
そして、本作は終わった後はしばらく頭を抱えて考え込んでしまった。

安定した生活を求めて、今流行りのギグエコノミーで働くことになる主人公リッキー。しかし、個人事業主として働きたい時だけ働ける、は名ばかりの、トイレの時間も惜しんで14時間働きっぱなしの生活を送ることになり、家族の心もバラバラになっていく。

AIやロボットが前面に出てきた頃、最終的に人間は働かなくとも収入を得ることができる時代が来るという話を聞いた。
しかし、この映画を見ると、そんな時代は来る訳がないと確信するし、仮にあるとするならば、ひと握りの全てを得る者と全く恩恵に預かれない者に分かれるだろう。

後半、病院のシーン。リッキーの奥さんデビーが、電話の相手に怒り出すシーンで涙腺決壊。
あの電話の先の相手は弱者に責任を押し付ける仕組みを作り出した者たち、つまりは今のイギリスに対する怒り。

コンピューターの進歩により、資本主義社会では所得格差が広がり、中間層は下方に落ちていく現実。明日は我が身とシャレになってない状態。

ということで、本作についてケン・ローチ監督にインタビューされた荻上チキさんご推薦のルポタージュ『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』をこれから読みま〜す!
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