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家族を想うときのsiloのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
3.5

「キーがなければ前の父さんに戻ると思って」

ロンドンに住んでいた頃、Sorry we missed youの不在連絡票を自分もよく受け取っていたのだが、掛け言葉でユーモアの効いたタイトルがなんとも心にくる。

ケンローチの映画を観るとき、人はいつだって「リアル」と否応無く対峙しなければいけない。それは社会の、生活の、人間関係の、友情の、恋愛の。
だけれど、映画的キャラクター、演出がないというとそうでもない。
寧ろ私たちが目にする普通の人々を魅力的にキャラとして演出しており、彼のセリフ回し、表情づくりはいつだって、私たちの心を揺さぶってくる。

あの嘆くような喋り方をする主婦も、黙々と働く疲れた眼の配達員も、素行が悪いけどたまに可愛いところをみせる男の子も、家族思いの愛らしい娘も、実際に向こうですれ違ってきた、どこにでもいる人々。
なんなら自分も向こうでその一人として、生きていた。
そんな彼ら(私たち)がケンローチの映画ではスポットライトが当たり、素敵な尊いキャラクターとなる。

自分は社会の告発的な大義名分のみをこの映画の中に見出して欲しくはない。
息子のセブが万引きをした際に、迎えにきた父親の前で、警察官が「お前には家族がいる、それがないやつだっているんだ。」と諭すシーンがあって、直後のアングルで父親の表情をメインにしてたのは、これを息子のセブにというよりも、仕事で家族を省みれていなかった父親に対しての言葉にしたいのではと思うが、まさにこの映画のテーマはこれに尽きるのではないだろうか。
タイトルに込められた「あなたがいなくて寂しい」の主格はまさに家族であり、その存在の重さ、尊さを、この映画は真っ向から真摯に見つめている。

集荷場のボスのマロニーが作中言っているが、「それぐらいの不幸どの家族も抱えた問題」なのかもしれない。
その上で「家族がいるかどうか」、それをスクリーンの中で見せたかったのだと思う
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