イホウジン

家族を想うときのイホウジンのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
4.3
「いつか幸せになれるはず」の“いつか”はいつ来るの?

資本主義/新自由主義と個人の幸福の追求の必然的な搾取構造を容赦なく見せつけられる、息苦しい100分間だった。格差社会の底辺を描く映画は最近だいぶ増えてきたが、今作ではその中で暮らす人々の日常をあくまで淡々と描いている。別になにか非日常的な出来事が起こるわけでもないし、主人公が“ジョーカー”になるわけでもない。映画の最後も唐突だ。しかし、このカタルシスの無さが逆にリアリズムを増幅させる役割を持っているし、この映画の独特な余韻の原因にもなっている。現代は、果たして“いま”幸福になれるような社会になっているだろうか?
そして今作のもう一つの重要なテーマは「現代における家族の存在意義」である。結局のところ、今作を複雑にしている最大の要因は、家族の各々がやった行為が全て家族のためを想ってやったものであるということだろう。父は家族を養うために長時間労働に自ら取り組むし、母は介護と親の責務を全うするために感情を抑圧する。兄は家族の目を引くために不良になるし、娘は空気を読みまくる。家族というシステムには確かに“無敵の人”の誕生を抑えるメリットもあるが、その一方で家族への愛が空転して社会の犠牲者に自ら身を投げ出す危険性もまたある。そんなことを見せつけられたようだった。

家族以外の登場人物の考え方があまり見えてこなかったように思える。家族の話がメインなのは分かるが、外的要因への言及が少なかった。全体的に説明的な描写が多いのもやや残念。

描かれる社会問題が日本のものと酷似していて驚いた。つくづく一億総中流は幻想であると痛感するし、邦画で似たテーマを扱う映画が少ないことを危うくも思う。
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