QTaka

家族を想うときのQTakaのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
4.3
今、家族の姿を描くと、絶望的な壁と、降りかかる悲劇しかないのだろうか?
それでも、家族は、今日も明日も生きていくのだろう。
でも、そこに未来はあるのか?
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『介護士』と『宅配便ドライバー』そして二人の子供。
それは、そのまま現代日本社会の姿ではないか。
この家族の風景を、他人事にできるほどの余裕は、今の日本には無い。
そう気づいてみると、この映画の重みはさらに増してくる。
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この家族の苦しみはどこから始まったのだろう?
物語の終わりにそんなことを考えてしまった。
「あの仕事が…」「その現場で…」そいういくつかの繰り返しと、家庭の中でのすれ違い、その積み重ねの末に今がある。そして、その今から次の日々が始まるのだが…
映画の始まりは、ここから新しく始まるつもりだったのだろう。
それは、ボタンの掛け違いを治して、家族みんなが幸せになるための一歩だったはずなのだが…
ボタンはさらに掛け違うことになり、その先に明るい未来は無かった。
それでも、家族の日々は続いていた。
そんな日々を描く場面は、とても辛かった。
どんどん家族がバラバラになっていく。
それでも、夫婦も子供達も互いを見つめて努力する。
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この映画を見て、それは私達だれもが生きている現在のことだとわかる。
それは、誰かが悪いわけではないし、誰かがズルをしているわけでもない。
でも、何かが、何もかもがうまくいかない。
そういう状況が有るのだ。
それは、既に、一個人の問題では無いと言うことだろう。
いつからこんなことになったのだろう。
なぜこんなことになったのだろう。
それは、一人ひとりのことではなく、社会全体がそうなってしまったのだろう。
損することが嫌で、得することばかりを求める。
そのためには、人と衝突することも厭わない。
あるいは、人と争うことを求めさえする。
人と人の関係が、どんどん壊れていく。
私達が生きる場所は、いつの間にかそんな風景になっている。
生きづらさとは、この時代を一生懸命生きるが故なのか。
そうして生きることをそのまま放置していいのか。
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強烈な物語を通して、ケン・ローチ監督が現代社会に訴えたのは、私達の生き方への問いかけだろう。
それは、現代社会、世界全体が受け止め、考えなければならない課題だろう。
それは、今、映画が最も強く訴えられるテーマかもしれない。
『パラサイト 半地下の家族 』(ポン・ジュノ監督)や、『万引き家族』(是枝裕和監督)が描いた社会も生きづらい社会とそこに生きる人々の姿だった。
映画から伝えられるものは大きい。
それは、必ず私達の今日を生きるための力になるはずだ。
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