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リトル・ジョーのslowのネタバレレビュー・内容・結末

リトル・ジョー(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

普段は言わない言えない本音と、それを解放させる不思議な花と、精神的に不安定な人間と、思春期で多感な子供たちと…。一度疑い出すと歯止めがきかず、重い腰を上げたら最後、そのまま行き着くところまで行ってしまうのだろう。
欧州のアート性と現代的なストーリー。そこに和のサウンドが絡むギャップが面白く、楳図かずお漫画を向こうで映像化したらこんな風になるのかもしれないなと思ったり(真っ直ぐな目や陰影など不気味さが楳図チック)。これは洗脳を描くサイコスリラーのようでもあり、女性の生き方を問う社会派ドラマでもあり、また『ボディ・スナッチャー』的なSF要素も匂わせるなど、様々な顔を持つ作品だった。
そのサウンド面、とりわけ目立つ尺八の異様なマッチング加減が不気味で、日本ATG作品なんかの、あの独特な雰囲気を醸し出していて個人的にはけっこう好み。さらに畳み掛けるようにエンドロールではブラック雅楽とでも言うのか、ジャンルレスなフュージョンミュージックが意表を突く。なかなかクールだった。
役者も味のある面子揃い。派手さはないけれど、エミリー・ビーチャムのちょっとした感情をつぶさに表現する表情から目が離せなかった(どことなくジュリエット・ビノシュに似ている)。時々する怪訝そうな顔、いや、悪いハムスターみたいな顔が好きだったな。そして、『007 スカイフォール』のQ役がスマッシュヒットしたベン・ウィショーの幸薄顔というか仔犬のような佇まいも好きだったし、子役の演技も侮れない(ちょっと『ホール・イン・ザ・グラウンド』を想起させた)。終始大真面目な内容であるのに、毒とも笑いとも取れる空気が漂うのは、やはり音楽の抜けが効いているんだろう(嫌いな人は全く受け付けないみたい)。犬の玩具の見た目とか、何とも皮肉たっぷりで監督の意地の悪さが素敵。
本当に全てはリトル・ジョーの仕業であった可能性もあり、全くの無関係という可能性もある。ただ、自分の本音を罪悪感なく通し、子育て以外も諦めない選択をするという結末は、男性に任せるというケースがあっても全然普通でしょう?あなたはこの選択をどう感じる?という問いでもあったと思うし、見方によっては凄くポジティブなラストに思えた。子供は愛している。でも他の選択肢も。そう考えると『ストーリー・オブ・マイライフ〜』的な映画だった気がしなくもないよ(アプローチのクセが邪魔をしただけ)。
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