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マティアス&マキシムのslowのネタバレレビュー・内容・結末

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

本作は原点回帰のようでもあるけれど、もっと遡った、まだただの映画好きだったドランが衝動を抑えられず撮ったような、そんな瑞々しさを端々に感じる作品となっていた。これドランがいくつかの映画に感化されて撮ったものなのだそうで、だからここにはリスペクトとか、インスパイアされてとか、そういうのもあるんだろう。でも単純に負けず嫌いとかだったら、何かいいなと思ったり。
小さな窓のようなスペースに人物を配し、より狭い画角に押し込めて心情を表していたのが印象的。あと、動揺や葛藤をさり気ないハンディ感やたっぷり前後に揺れるだけで決めるスタイリッシュさには、やっぱり技術の高さというよりセンスの良さを感じてしまう。音楽の使い方も相変わらず外さないんだよな、この人は。
母親が弟を昔から溺愛していたであろうことは終盤のシーンから想像できる。もしかしてゲイであることを母親に打ち明けてから、今のような関係になってしまったのだろうか。物を投げて怪我をさせることが日常的にあったのならば、あの痣は母親からの虐待だったのかもしれない。火傷とか。そうでなくて、生まれながらだったとしても、あの痣は世間や母親が彼に負わせた普通ではないという根拠のないレッテルのようであり、彼が時につまはじきにされて来たであろうトラウマそのもののように見えた。あの場にいた仲間たちはそれに誰も触れることはない(きっと最初は色々あっただろうけれど)。それは彼らが親友であることの証しとなっていたのだろうし、その絆はマキシム自身と彼らがお互いを信じることで手に入れたかけがえのないものだったのかなと思う。だからこそ、マティアスが今更あんな風に口走ったことが皆んな許せなかったのだろう。
鏡を割った際に傷付けたマキシムの手にマティアスがキスをする。これって最悪だった親との関係とか、自分の生き辛さとか、マキシムが否定したい、忘れたいと思って殴り付けた過去を抱擁(肯定)するものだったように思えて、あの瞬間、電球が点ったあの時だけ、魔法がかかったようにマティアスは素直にマキシムの全てが愛しくなったのかもしれない(抑え込んでいた想い)。ただ、そう。これは魔法であって、あの電球が消えてしまうのと同じなんだろう。結局あの瞬間が瞬間にならなかったのかどうかは、わたしたちの想像に委ねられて映画は終わる。
ドラン作品のつられ笑いみたいな演出が大好きなんだけど、本作でも観ることができて嬉しい。痣のこととか終盤のメールのこととかベタと言えばベタ。でもとても良い作品だったんだよ。観るかどうか迷っていたけれど、観て正解だった。ドラン、やっぱりいいね。
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