Hiroki

マティアス&マキシムのHirokiのレビュー・感想・評価

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
4.2
いつのまにか2023年も上半期が終わり、映画は観てるのにレビューが書けない日々。下半期頑張ります!
そしてなぜかワンピースのアニメをワノ国編のスタートから現在まで約160話を観なければいけなくなり、さらに時間がない。てかワンピースのアニメ10〜30秒くらいの短い回想シーンが多すぎる。本誌に追いつかないようにするためらしいから仕方ないみたいだけど、実質10分くらいしか中身ないんじゃないか...

さて最近の映画トピックスは、トム・クルーズが北米でM:Iの最新作と同時期公開の大作『インディー・ジョーンズ運命のダイヤル』『バービー』『オッペンハイマー』のチケットを持った投稿に『バービー』のグレタ・ガーウィグ&マーゴット・ロビーが返したり、WGA(全米脚本家組合)のストが長期化する中でSAG(全米映画俳優組合)も一度は延期された交渉期限が近づいてストの可能性が再浮上していたり、いろいろありましたが。
やはりなんといっても“カンヌの申し子”グザヴィエ・ドランの映画界引退報道。
「今、物語を語ることに何の意味がある?芸術は役に立たない。映画に没頭するのは時間の無駄だ。」
とかなりショッキングな言葉が並んでいましたが、若くして一躍スターダムに駆け上がった彼の葛藤や苦悩。
そして現代のコンテンツ量の圧倒的過多・ショート動画や倍速再生などの視聴習慣の変化・AIによる構造的変化など明らかに映画を取り巻く環境は一変している。
とある日本の著名な映画監督はこの件に関して「何も不思議じゃない」とコメントしていた。

今作の中でグザヴィエ・ドラン演じるマックスが
「やさしいね。でもあなたの欠点かも。世の中はやさしい人間を警戒する。なぜだろう。」
と言われるシーンがある。
やさしい人間やまともな人間から壊れていく世界。映画界に限らずどこもかしこも。
でもそんな狂った世界で救いになるのは、映画であり音楽であり文学であり、芸術なんじゃないかとも思う。

グザヴィエ・ドランの映画はいつも家族、親子、母と息子を描く。
愛しているのにうまくいかない、いびつで出来損ないで、でもだからこそ気になって仕方ない。向き合いたくないけど向き合わずにはいられない。捨てたいのに捨てれない。そんな関係。
今作でもメインテーマは別の所にあれど、ここら辺の根底にあるテーマはやはり同じ。
台詞回しや動作、表情の隅の隅に至るまでここに関するディテールが凄まじい。
だからこそみんなきっと目を背けたくなる。
ドラン作品と言えばのアンヌ・ドルヴァルとドランの母と息子のコンビは、本当に自然体すぎて感動すら覚える。

そして今作のメインテーマはラブストーリーですね。
初めに幼馴染のマット(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマックスが映画の代役でキスする所から物語が始まるんだけど、このキスシーンが実は映像としてはスクリーンには映らないんですよ。
でそのまま終盤までラブシーンはなく両者の葛藤を描いて進んでいく。
少し前にイタリア映画で『最初で最後のキス』(『One Kiss』)という作品があったんですけど、それと同じシステムでマットとマックスは劇中で一度しかキスをしない。(というか映らない。)
このワンシーンのために前半からずっと振りをきかせてるなーという感じなんだけど、でもだからこそその一度のシーンが素晴らしい。美しくて荒々しくて、どこか悲しげで。
土砂降りの中で映る仲間たちとのコントラストも良い。
そもそもメインテーマをLGBTQではなくラブストーリーと書いたのは、セクシャルマイノリティというものをほとんど意識していない気がしたから。
マットとマックスのキスから始まった物語はきっと男同士だからという以上に、幼馴染で親友でお互い今は別々の環境の中で生きている事への苦悩だったように思う。
きっとマットかマックスが女性でも同じような状況になったんじゃないかな。
そーいう意味ではLGBTQを何も悲劇的に描いていない。
グザヴィエ・ドランらしい愛の描き方だなー。

あとはやはりドランといえば会話劇ですね。
全てがそーなんですけど、特に幼馴染の集団で集まっている時の会話の自然さは凄かったなー。台本本当にあるのかなーというくらい。
そしてそこに音楽(Amir Haddad『J'ai cherché』が流れるシーン最高)や衣装(色彩感覚はやはり凄い)、撮影(急な不自然ズームアップ)や編集(アスペクト比を変えたり倍速にしたり)など彼独自のエッセンスを注入する。
これでもはや唯一無二の作品の出来上がりです。

私が彼のビッグファンなのもあるけど、もー本当に言う事がないくらいの集大成的な名作。
そー考えるともしかしたら、映画という媒体でやりたい事も無くなってしまったのかなーとか思ったりもします。
でも彼はまだ34歳。
いくらでも可能性に満ち溢れているし何かしら別の方向でもきっと才能を発揮してくれるはず!
そしていつの日かまた映画が撮りたくなったら戻ってきて欲しい。
きっとそれまで私は映画を観続けているから。

2023-43
Hiroki

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