シネマスナイパーF

鵞鳥湖の夜のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

鵞鳥湖の夜(2019年製作の映画)
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これを観た後では、薄氷の殺人は超万人向け映画に思えてしまう
この鵞鳥湖の夜、とにかく画で強引に持っていこうとしてるし、実際強烈なイメージ炸裂させまくって状況を視覚的に叩き込もうとしてくる


雨の夜、四方を囲まれたような構造の場所で始まる
後にここが駅だということが分かり、ここを起点に様々な時系列を語り、我々を迷路へと連れていくわけだな、なるほど
そこへ傘越しのシルエットで現れる女
何度も何度も鏡越しで映されるように掴みどころが無い人物として描かれるアイアイという女の登場として秀逸だし、彼女は関係なくなるとはいえ傘が後半笑っちゃうようなとんでもないバイオレンスに使われるんですよねぇ
このように同じような描写、場面の繰り返しが多い一方、逆に正反対の対比もあり、エンディングはまさにオープニングと対となる天気で、いる人物の状況も逆になっているというね

2012年という超直近を設定しながら、これほど窮屈で陰鬱な場所を舞台にバイカーが闊歩しているとかヤバいんですけど、どうやら中国の都市開発から置いていかれた場所では現実らしい
まさにそこにある現実を舞台に強烈なノワールを作り出すという点で、やはり薄氷の殺人の作者といったところ
バイカー集会での喧嘩の様子を寄りの定点でスライドショー的に見せていくあの演出、漫画で同じ大きさのコマを並べている感じがして面白く、且つその途中で女性がなんか食ってる様子が挟み込まれたりするから笑うんだけど、実はコレ、事の顛末での勝者を暗示してたりするんだよな、たぶん
一方警察も集会を開く
警察はもちろん喧嘩はしないんですけども
基本的に集会は何かの合図だと思っていいんじゃないかな
この後話が動き出すか、何か決定的なことが起こるか
クライマックスもう一回集会があって、その集会は、舞台となる場所が何故これほどまでに闇を抱えているのかを示す場面でもある

生への執着の強さというか、生存本能の強さが面白いし、重要でもある
劇中、ぎょっとするような動物連続映しがあって、ぶっちゃけこれ自体に作劇への強い意味は感じられないのですが、気味悪さの加速、野性味の増長に一役買ってるかなとは思うし、映画そのものが異物感を放ち、現実的でありながら寓話的で抽象的な独特の味を引き出してるんじゃないかな
飯描写もパワー有りで、注文しろのくだりが超序盤とクライマックスでこれまた繰り返され、中盤一度飯食いそうで結局食わなかったアイアイがこのクライマックスでは食い、ついに決定的な行動に出て、話は終わりへ一直線

中盤、田舎の道を歩きながらも、再開発後のイメージ画なのか都会のビル群を思わせる絵が背景に混ざり出し、一時身を隠すために入った見世物テント?では薄気味悪いギミックのマシンが歌い出し、複数の鏡を介したアイコンタクトがある
ここでもうわけわかんなくさせてきてます
その夜、ボートでの一瞬の駆け落ちがあり、当然そこには光がないため影も鏡もなく、本当の二人として溶け合っている…っぽい一応
そして終盤へって感じで、ここから先はいよいよ超ノワール、闇の境地へと迷い込むぞと加速していくわけだ
たぶんね

他にも、薄氷の殺人の主人公デカ、リャオ・ファン演じる警察隊長が、夜に今作の主人公の奥さんを尋ねた際に明かりをつけて消してつけて消してを繰り返し去って行ったのに対し、物語の最後は奥さんを目にしてどう行動したのかで、彼の心象変化が見て取れたりする
明暗入り交じる疑惑からはもう解き放たれているんだよな
奥さんとアイアイ二人だけの時の空気感も変化していて、ずーっと見せてこなかった表情で終わるあたりラストは本当に綺麗
アイアイが奥さんを訪ねるシーンの、遊ぶ子供たちへのアイアイの視線も繊細な人物描写だった
かなりポジティブ且つ分かりやすく終わっている映画じゃないかな
裏切りもある映画ですが、あまりに強い生命力のぶつかり、爆発による死とその裏に残る生…的な話だと思った
繰り返し、対比、影といった映像的要素はまさに表裏って感じ
無法地帯と化している場所の若者が違法とはいえ彼等なりに泥臭く生きている中で首チョンパという描写が一番強烈で、如何にあの舞台が生と死の渦巻く場所かを嫌でも分からせてくる
主人公の包帯巻きからの写真に銃向けの流れが色々と滲み出ててゾクゾクしたわ

相変わらずネオンを色っぽく撮るし色使いは強烈で、序盤のホテルの一室の紫はスゲーし、ライト付きの靴を初めとする祭り?のシーンは延々と見ていられそう
中国語原題の通り、パーティーのようなものとして観るべき
様々な人間達が一堂に会し、主人公を生きるマクガフィンとして争うような…そんなパーティー、なんなら祭りとして楽しもう
超ブっ飛んだ祭りだけどね


誰かを映してるんだけどカット割らずに回り込んで次はコイツを映す…とかね〜気持ちいい映像がオープニングから冴え渡ってるんですよ
影の演出もカッコよくて、影を通して背中合わせになるとか計算された素晴らしいショットがまた絵になるんだよなぁ
薄氷の殺人の持つ様々なワンシーンの空気感をそのままに、さらにセンスをギラつかせてしまったディアオ・イーナン監督マジやべえっす
グラフィックノベルを動かしたらこうなるだろうってレベルでバキバキに絵画的
超カッコいい映画だった

正直自分は、こういう映画を無条件で絶賛して細かく語り、いけ好かない映画は粗探しをしてテキトーに語るタイプです
すいません