Tラモーン

その手に触れるまでのTラモーンのレビュー・感想・評価

その手に触れるまで(2019年製作の映画)
4.0
U-NEXTのオススメに上がってきたので、ふと気になって鑑賞。


ベルギーのムスリムコミュニティに暮らす13歳の少年アメッド(イディル・ベン・アディ)。つい1ヶ月前まではゲームが大好きな普通の子どもだったが、ここ最近はイスラム教の経典コーランに夢中になり、導師(オスマン・ムーメン)と呼ばれる男の礼拝に入り浸っていた。次第にイスラム過激思想に蝕まれていったアメッドは、放課後学級でアラビア語を教えるイネス先生(ミリエム・アケティウ)をイスラムの敵だと思い込み始める。


すごい作品だった。けど終始嫌悪感というか、不快感というか、気持ちの悪い感覚から目が離せないという感じだった。

純粋が故の無知と視野の狭さ。極端で偏った思想に導かれていることにすら気がつくことができない幼さ。
子どものころ、わけのわからない謎の家庭独自のルールを常識と信じきっている子とまったく話が通じなかったことを思い出す。

決してイスラム教そのものが悪なわけではないとは理解している。
しかし、この作品においてはイスラム教の立ち振る舞いがなんとも言えない嫌悪感を煽るように演出されていたような気がする。アメッドの手の洗い方、うがいの仕方、ブツブツと祈りながらの礼拝。常に嫌〜な空気感が流れる。

殺人未遂によって入れられた少年院では、一見模範的な行動を示し、母親のために反省したかのような素振りを見せるアメッド。しかし彼の過激な思想は揺らぐことはなかった。
盗んできた歯ブラシを鋭く研ぐシーンの狂気と気持ち悪さときたら。

"あなたが預言者を通じて命じた行動を成功させてください。預言者に平安あれ"

"努力して真のムスリムになってください。そうすればぼくを誇りに思ってくれるはず"

真っ直ぐ過ぎるアメッドの狂気に吐き気がする。

少年院での奉仕活動として働く農場でアメッドは真面目に働き、農場の娘との淡い初恋も芽生え、これで自身の思想の異常性に気がつくのか…と思いきや。

"ぼくは罪を犯しました。罪は地獄と同じくらい嫌だ"

"ムスリムになる気はある?"

13歳よ、13歳。女の子とキスなんてした日にゃ舞い上がって宗教の規律なんて忘れるだろ普通。女の子にキスされて"口を開けて"とまで言われてるんだぞ。
なのに「改宗してくれる?そしたらぼくの罪が少し軽くなるんだよね、まぁそれでも婚前であることに変わりはないんだけどねウンタラカンタラ」って気持ち悪過ぎるでしょう。

明らかに自分に好意のある女の子に言い寄られてもなんも言えずにタジタジするチーズ牛丼の癖に、宗教の話になると急に饒舌で強気になるの本当に気持ちが悪い。

ブレないクソガキがもう1回凶行に走るラスト10分。
最後の長回しがめちゃくちゃ緊張感と不安を煽る。うわ、うわ、やめろよ絶対。なんてハラハラが永遠にも感じられた。

全てを語らないラスト。ぼくにはアメッドの狂気の執念しか想像できない。子どもに見えて彼は意外と狡猾だし、彼にとっては凶行ではなく聖戦だから。


決してイスラム教が悪なわけでもないし、宗教が一概に洗脳とは言い切れない。でも排他的な盲信は恐ろしい。主役が子どもだからこそ、そんな恐怖をまざまざと描いた作品だった。
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