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Pater(原題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

Pater(原題)(2011年製作の映画)
2.5
【フランスメディア大絶賛の難解会話劇】
皆さんは、アラン・カヴァリエをご存知だろうか?

アラン・カヴァリエはフランスの名門映画学校IDHEC(後のLa Fémis)出身の映画監督で、『死刑台のエレベーター』や『恋人たち』とルイ・マル映画の助監督を経ている人物。日本ではカトリーヌ・ムシェ主演の『テレーズ』やカトリーヌ・ドヌーヴ、アラン・ドロンの映画で有名ですが、彼の作品は割と論争を引き起こしています。若いファシストのカップルの革命を描いた『Le Combat dans l’ile』とアラン・ドロン主演のアルジェリア戦争もの『さすらいの狼』は、検閲に引っかかり問題となりました。

最近では、ドキュメンタリー作家に転身し、靴屋、映画監督、アスリートなどにインタビューした3部作『SIX PORTRAITS XL』や馬と生活する人に迫った『LE CARAVAGE』などを製作しています。2014年には監督が自然から人生を見つめ直す『LE PARADIS』がカイエ・デュ・シネマベストテン2014で9位にランクインする快挙を成し遂げました。今回のカンヌ国際映画祭ではアウト・オブ・コンペティションに終活をテーマにしたドキュメンタリー『ÊTRE VIVANT ET LE SAVOIR』を出品しています。
そんな彼が2011年にカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品した『PATER』は、フランスメディア大絶賛でallocineによると25媒体平均4.3/5.0(2019/05/02時点)という驚異的数字を叩き出した作品。実はブンブン2014年のフランス留学時にDVDを購入してからまだ観ていなかったので、アラン・カヴァリエカンヌ凱旋を記念して観てみることにしました。

まず、この作品は映画評論家の大寺眞輔さんが本気出さない限り日本公開は不可能でしょう。というのも、あまりに難解すぎるかつフランス情勢を理解していないと訳がわからない作品だからだ。まず、フランスの大統領と首相の関係を理解する必要があります。フランスでは大統領が外交を担当し、内政は首相が担当する分業を行なっています。この映画では、映画監督のアラン・カヴァリエが大統領が最大賃金を制限しようとするのに対し、ヴァンサン・ランドン演じる首相は「prennent le max!(最大を取る!)」と言い抵抗する。マクロな視点で見ると、コスト削減を図り全体の収益を上げることこそが国の発展に繋がると考えることが容易だ。しかし、個人レベル、ミクロなレベルで考えると、それは富の集中、貧富の格差を生む戦略であることが分かる。その立ち位置を、映画監督という特権的独裁者的存在と、それを支える役者の視点から語らせることで、だんだんと虚実の境目がなくなっていき、あたかも本当にアラン・カヴァリエないしヴァンサン・ランドンの主張に見えたりする。このパワーゲームにノレるかどうかが面白さに繋がっていきます。

また、ヴァンサン・ランドンはこの後、ステファヌ・ブリゼ監督と組み、『ティエリー・トグルドーの憂鬱』『EN GUERRE』で労働者代表として経営者と闘う映画に連続して出ています。こういったことを考えながら観ると、より一層深みが増します。
残念ながら、ブンブンは語学力不足もありそこまで楽しめなかったのですが、ディスカッション大好き、家族同士でも政治の話をしまくるフランスならではの白熱会話劇でした。もし、機会があれば是非!
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