テオブロマ

マイリトルゴートのテオブロマのレビュー・感想・評価

マイリトルゴート(2018年製作の映画)
4.0
ふわふわのフェルトでここまでダークな世界を描けるとは。例のシーンではおとぎ話風な世界観を活かした見事な婉曲表現がされているのに、すさまじい生々しさおぞましさを感じる。消化されかけて体が溶けてしまった子ヤギ達の血が滲んだ感じ、肉が見えてる感もエグい。フェルトなのに。

明確に作り物であるフェルト人形のビジュアルに対し、声が浮いてるというか、妙に生々しい感じなのがいい。もっとアニメ調な可愛い声を当てれば違和感はなくなるんだろうけど、その違和感が大事なんだと思う。どこか落ち着かない感じ、可愛いはずなのにゾワっとする感じが。

我が子を助けに来たはずの父親は虐待加害者であり、ナツキにとってはオオカミでしかない。ケダモノと化した男を退治して子供達を守った母ヤギだって、そもそもナツキを誘拐監禁してるし、ナツキ父を殺害、遺体損壊、遺棄してる。あの家でトルクとして生きていくことを決めたらしいナツキは、ラストで幸せそうで少しだけホッとした。ずっと暗かった画面の中で、子ヤギ達が色とりどりのケープを仲良く着てるのは純粋に可愛い。反面、隠蔽が甘くて浮いてきてたスニーカーや行方不明者の捜索隊と思われるヘリの音からして、あの家は遠くない未来に見つかってしまうのではという不安も残る。母ヤギは愛という名目で子供達を監禁し続けるし、子供達はそれをそのまま受け取る不健全で歪んだ関係だし。連れて来られた当初は異常だと思ったはずのナツキも、そこを選んだ以上もうそんな指摘はしないと思う。悪いオオカミは退治され、ナツキと一家の間に信頼関係が芽生え、「トルクお兄ちゃん」が戻って家族が元通りになりました、めでたしめでたし!というの流れのはずなのに、明るい未来を想像するのが難しい。安易にハッピーエンドとは思えない不穏なラストだった。

あの一家がヤギの姿なのは比喩表現で、実際は子供達を拉致され、長男を殺されてしまった犯罪被害者一家なのかもしれない。弱者のメタファーとして一家はヤギの姿で、犯人はオオカミとして描かれているだけで、本当は人間なのかも。体が溶けて化け物のようになってしまった子ヤギ達は一生消えない傷を負った被害者で、ナツキ父もトルクを食い殺したオオカミと同じく、ナツキを…となったからああいったケダモノとして映ったとか。見たまんま、動物人間と普通の人間が共存する世界だと素直に受け取っていいんだろうけど、色々解釈の余地があって面白い。
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