YasujiOshiba

ANNA/アナのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ANNA/アナ(2019年製作の映画)
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U次。23-129。なぎちゃんの推薦。最後までドキドキ。後味も最高。リュック・ベッソン、いいじゃない、もたつくところがなくなった。セリック・セラの音楽もよろし。

壁が壊れる前の話。サシャ・ルスはロシア出身のモデルという役だけど、これはほとんど自分自身。ただし1992年生まれ。ソビエト連邦の崩壊の一年後の生まれ。フィクションとリアルが混じるところに映画的リアリティが生まれるわけだ。だって、モデルのシーンなんて最高だったし、うっとうしい写真家をぶちのめすところなんて拍手もの。

アナ/サシャの経歴に目を付けるKGB職員アレクセイを演じるのはルーク・エヴァンズ(1979-)。ガタイがよく、眼差しがよい。ウィキを見るとキャリアの「早い段階からゲイであることを告白している」という。そんなことは演技と関係がない。関係があるのは愛を知る眼差しと、身体の使い方。アナとの激しい交合シーンなんてほとんど格闘技。うそなんだけど、うそであるからリアルなんだよな。


それからKGBのボスを演じるのはヘレン・ミレン(1945-)だけど、父親は革命により亡命を余儀なくされたロシア帝国貴族だったという。ここにもリアルとフィクションが交錯している。

忘れてはならないのがもう一人のエージント、CIAのレナード/キリアン・マーフィー(1975-)。今は彼の演じたオッペンハイマーが話題。早く見たいのだけど、最初にみたのはたぶんダニー・ボイルの『28日後...』(2002)。あの少し奥目ぎみの瞳には、いろいろな含意を込められる。そしてその含意をベッソンはうまく利用している。いい俳優さんといい監督さん。

時間を前後させながら進む脚本は、気を衒うようで、実にすんなりついて行ける。悪くない。むしろ時間をカットバックさせることで、『羅生門』的な視座をずらしてくれるところがよい。スパイものの脚本の鉄則。騙しているのか、騙されているのか。それとも、騙されているようで騙しにかかっているのか。

そんなスパイものは過ぎ去った時代にしか成立しない。でもそこがよい。西部劇がそうではないか。伝説は蘇る、ジャンル映画としてね。
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