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ラビッド・ドッグスのhorahukiのレビュー・感想・評価

ラビッド・ドッグス(1974年製作の映画)
4.4
ホラー秘宝でバーヴァ特集とかいう素晴らしい企画をしてくれたおかげで、大好きな『血ぬられた墓標』を劇場鑑賞できてサイコーにハッピーな気持ちになってます。改めて見て、『血ぬられた墓標』って劇場がこれほど合うのかとビックリ。濃い影の吸い込まれそうな闇と大仰な音楽が家で見るより数倍マシで迫って来て感動しまくりでした!テンション上がりすぎてスコア満点に変更しちゃった😂爆音上映とかもしてくれたら最高なんだけどなぁ。

そんで本作ですが、こちらもめちゃくちゃ面白い!!

警察から逃げる強盗4人組の逃走劇。逃げる途中で捕まえた女と、幼い子どもを連れて病院へ急ぐパパさんを人質に安全な何処かを探しひたすらに車を走らせる…。犯人たち。人質たち。そして鎮静剤で眠る幼い男の子。どこでどんな爆弾が起爆してもおかしくないスリリングな関係性をほぼ車中のみで描く。

もともと『リサと悪魔』を製作中にエラリークイーンの書いた『A Man and a Boy』をバーヴァが見つけ、ホラージャンルからの解放的な意味合いと今までとは違うスタイルを確立させたい思いをそれに見いだしたのが本作製作のきっかけらしい。でも撮影後にお蔵入りし、バーヴァ自身完成版を見ることが出来なかったというエピソードが悲しい…😭

実質的なデビュー作『血ぬられた墓標』の時点で人の肥大化した心の闇を変態的かつ病的に、だけど上品に包み隠して描いていて、それがバーヴァらしさのひとつだと思うのだけど、本作ではクライム映画なこともあり、全開に変態性を出してる。だって人質にした女を、スカートの下からパンツだけ脱がしておしっこさせてニッカニカな笑顔でオッサン2人が観察してるとか相当ヤバイ!しかもそこに長尺割いてるあたりにバーヴァのフェチが出てる🤣

冒頭に強盗シーンを配置。警察無線の犯人逃亡のアナウンスが本編へのアクセルが入ったことを示すかのように観客の感情を誘導する。そこから人質を獲得し車での逃亡へと急ピッチで進める舞台作りの動的な慌ただしさから車内という閉鎖的舞台が整ったことを示す静的な落ち着きへと目まぐるしく空気を変遷させていく。その目まぐるしい展開に思考がついていかないほどの切羽詰まった混乱がそのまま行動に現れ、必死な汗臭さを纏う強盗たちが次第に状況を楽しみ始めることにも物語のステップが移ったことを感じさせる。

整った車内の舞台で、獣性と知性をそれぞれ宿したキャラクターたちのパワーバランスが行き来するスリル。固定化された箱と流動的な内部。人の内面における二面性を別人格のキャラクターたちに象徴させ、そのやり取りによって表現するのは多くのバーヴァ作品で見られるテーマ。本作では車内の前後で大きく線引きがされるのだけど、獣性側と知性側双方において分かりやすいステレオタイプな描き方をしないのが流石!

獣性側が優位にたちつつも、知性側の最後の牙城として配置される子どもを巡って前後で行われるやり取り。「外から目立つ」という理由で行われる知性側からの決定的な行為は、知性が内面から湧き上がる獣性を押さえ込もうとする人間内部での抵抗そのもの。カオスな内面を抱えた車という箱に見立てた人間は、「終わり」に向かい走り続ける。

『血みどろの入江』のようなラストが本作でも用意されているのだけど、本作の場合は前半で(恐らく意図的に)真相に気づくように作られている。ただ、その考えを少しずつ観客の頭の中から追い出させていくように巧妙に演出が練られており、映画を構成する大前提の地位にまでその違和感を昇華させてしまうからうまい。そして訪れる、自身の内面すらも欺き続ける象徴的結末が素晴らしい。人の暗い部分に焦点を当て続けるからバーヴァは面白いんだなぁと改めて実感。

Blu-ray付属のブックレットによると、今回発売されたのはランベルトバーヴァによる修繕版らしい。ブックレットに記載はないのだけど、レオーネがランベルトに本作の修繕を持ち込んだ際、ランベルトの方は下手に修繕することに乗り気ではなかったみたい。実際に修繕版(今回のBlu-ray収録版)は評判も悪かった様子。こっち収録した以上、ブックレットにそのあたりの記載は出来ないのだろうけど、40周年とか謳うくらいなら両バージョンともに収録して欲しかった…。

本作が予定通りに成就しなかったことがバーヴァにとってのその後を決定づける要素にもなったのだから、どちらが優れているかとかバーヴァのもともとの構想に近いかは置いといて、両バージョン収録ってのは凄く重要なことのように思うのだけど…。私が訳ミスしてて、そんな事実存在しない可能性もあるけど!🤣

DVDファンタジウムではクライムホラーと記載されてるので、一応ホラータグをつけときます!
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