ノラネコの呑んで観るシネマ

ANIARA アニアーラのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

ANIARA アニアーラ(2018年製作の映画)
4.3
珍しい北欧製のSF。
8000人を乗せたまま、動力を失って宇宙を漂流する移民宇宙船アニアーラは、いわばミニチュアの地球。
食糧難を乗り切れば、今度は先の見えない絶望が襲ってくる。
人々を癒し続けた結果、疲れ切ったAIは自殺し、今度はそのAIを信仰するカルトが生まれる。
SF者としては「この船、電力や水はどうやって供給してるだろう?」とか考えてしまうが、描きたいのはそっちじゃ無いんだな。
船の中がほぼ現在の地球(たぶんどこかのオフィスビル)なのも、シチュエーションのシミュレーションに特化するためだろう。
映画は一人の女性クルーを中心に、数年おきに人々の変化を追ってゆく。
未読だがノーベル賞作家ハリー・マーティンソンの同名小説が原作だけあって、非常に文学的な手触りの作品。
淡々と進むのでエンタメとしての面白味には欠けるが、ドラマは見応え十分。
巨大なモノリスの様なアニアーラは、どこへも行けない文明の石棺。
閉塞した世界で、一度失われた希望は二度と戻ることはない。
未来を完全に失った時、人類はどうなってゆくのか。
隔離された宇宙船の中で展開する、滅びゆく人類文明のカリカチュア的クロニクル。