YasujiOshiba

エターナルズのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

エターナルズ(2021年製作の映画)
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密林レンタル。23-127。なぎちゃんとお楽しみ映画。これは大正解。愛は宇宙を救う。アンジーの最強メンヘラ女戦士が最高。あとは『聖なる鹿殺し』(2017)のバリー・コーガンの目がいっちゃってる感じも良い。ヒーローたちがみんな抱えているのを、キャスティングのうまさが引き立ててくれてるよね。それにしてもクロエ・ジャオの『ノマドランド』(2020)まだ未見。見たくなってきた。どこで見れるのかな。

追記:
あらゆる時代に偏在するエターナルズだが、1945年8月6日の広島が登場する。原子爆弾の焦土に立つエターナルズのひとりファストスが「私のせいだ」と膝をついて涙する。

ファストスは技術を司るエターナルズ。地球の人間に少しずつ必要な技術を教えてゆくのだが、量子力学もまた、このファストスがもたらしたものだという設定だ。

この描写には批判があったという。「エターナルズ、映画、広島」でググると、中国メディアの報道を伝えるこんな記事がヒットした。(https://www.recordchina.co.jp/b885619-s25-c30-d0052.html)。

曰く「第2次世界大戦でこれほどの惨劇があったにもかかわらず、エターナルズは広島のことしか気にしない。日本ファシズムに傷付けられた他の何者も彼らの目には入らない」。「この映画は驚くべきことに日本を被害者の角度から描いている」。「信じてください。原爆投下は当然の報いだったのです」と。

米国には「原爆正当化論」もある。同シーンについては「対立的だ」「恐ろしすぎる」との懸念の声もあがったらしいが、監督のクロエ・ジャオは同シーンをすべてのバージョンに残すために奮闘したと伝えられる。それくらい衝撃だったということだろうか。

それにしても広島・長崎の原爆投下をあんなふうに描いたハリウッド作品をぼくは知らない。映画『オッペンハイマー』の公開の遅れを解説するこの記事(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b68cefb86f649a973008ca2236e9a16922779099)には、こんな記述がある。

「たとえば2014年の『GODZILLA ゴジラ』では、渡辺謙の科学者が原爆投下を言及するセリフが、米国防総省の指示で削除された」。「アメリカ映画として原爆投下を“悲劇”とするのは、ひとつのタブー」。「日本が舞台となる2013年の『ウルヴァリン:SAMURAI』は、長崎に原爆が落とされることから物語が始まるが、全速力の走りで爆風を逃れるなど、かなり非現実的」。

そんな記事に取り上げられるのがこの映画。「マーベルのアクション大作『エターナルズ』(2021年)で、短いシーンながら、原爆が落とされた後の広島の惨状が生々しく再現された。脚本を日系のカズ・フィアルポ〔ママ〕が担当していたからだ」。

ここでカズと呼ばれる脚本家カズ・フィルポ Kaz Firpo(Matthew Kazuo Firpo, San Francisco 1990)は日系のアメリカ人。そして広島のシーンは、自分のルーツへのこだわりでもある。「日本に家族を持つ日系アメリカ人として、これは私の人生や歴史における大きな一部。人間の悲劇を避けて通りたくなかったんです。二度と起こらないように、皆さんに考え、話し合いをして欲しいんです」
(https://theriver.jp/eternals-hiroshima/2/)

このカズ・フィルポの2021年の短編がネットにある。タイトルは『プラスチック、根絶せよ | SiGNALS』。なるほど、自然に帰ることがないプラスチックとは、「エターナルズ」であり「デヴィアント」なのかもしれない。そんなことを考えさせる短編。
https://www.youtube.com/watch?v=gujvvV_FqSM

「広島のシーン」は、ディズニー映画(マーヴェルはその傘下)でジェノサイドは初だという。そういうものが話題になるのは、あくまでも事後的なもの。大切なのはあのシーンが、映画作りの本質を表しているということ。

日系の脚本家カズ・フィリポが自身のルーツを脚本に織り込み、その思いを監督をはじめてとするスタッフが引き受ける。だからあのシーンがある。映画というのは、参加する個人個人の生が集まって生まれるものにほかならない。だから、映画とは人間の姿をしている。

ヴィスコンティはそれをチネマ・アントロポモルフィコと呼んだ。それは、20世紀の半ばに映画が夢見た理想のすがただ。その後、時代とともに、その姿が少しずつ形を変えながら現れてくる。そんな時代を一緒に生きている。そんな感覚が強くなってきている。

うれしいことだ。
YasujiOshiba

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